第九百九十話
椿がどこかに行くたびに、誰かを触れ合っている。
いや、アトラクションの都合上、誰もいないパターンはあるので、椿自身、人が多いところに向かっているような印象があるか。
何で遊ぶかよりも、誰と遊ぶかということが頭によぎるのだろう。
さみしがり屋さんなのかな?
「……さてと、椿が楽しんでいるようで何より、で、今のところ不備はないか?」
「はい。まあ、椿ちゃんが思ったより食べるので食糧の搬入が遅れている部分はありますが、それを除けば特に問題はありません」
今回の旅行は主に金銭的な面で魔法省がかかわっている。
もちろん、これらはアトムの善意ではなく打算であり、ビルの五階くらいなら落下しても問題がなく、セフィコットを無理なく運用できる彼らだからこそ最初に呼ばれたのだ。
全校生徒となるとかなりまとまった数になるので稼働上の不備があるのかどうかがわかりやすいということもあり、結果的にそのようになっている。
女性官僚の説明を聞きながら、アトムはうなずいた。
「……食べすぎだろ」
「昨日の夜のバイキングはすさまじかったそうですね」
「コース料理が来たら普通に食べて、バイキング形式になったら大量に食べるあの胃袋は一体どうなっているんだろうな……」
朝森家七不思議……いや、七つじゃ足りないが、とりあえず不思議な点、『椿の胃袋』の謎はアトムにもわからない。
『多分ギャグ補正の影響だろう』という、論理的な説明のすべてを放棄する方法もあるのだが、そういうことを繰り返していくと結果的に何も解決せずに挑むことになるので、立場的にそれはよろしくないのだ。
「小さな点は?」
「アトラクションが全体的に、『魔法に興味を持ってもらう』ために作られているため、魔戦士として現場で戦っているものからすればもの足りない部分があることでしょうか」
「調整した結果、そのあたりになることは仕方がない……が、現場の魔戦士にしかクリアできないようなステージを用意しておく必要もあるか?」
「それができるとしても、後にするべきでしょう。秀星さんや宗一郎さんをはじめとする『沖野宮高校の中でも上位陣』に位置する生徒たちがまだ『スコアが記録されるアトラクション』に入っていませんが、正直、とんでもないことになるので」
「まあ、『理想上の最高値』をたたき出すのは間違いないか」
次元が違いすぎるので殿堂入りね。だから入っちゃだめだよ!ということである。
いったい何のための遊園地なのかよくわからないが、調節が済んでいない今、やみくもにやっても仕方がない部分はある。
「とりあえず、必要なデータは取れたようで何よりだ……あとは……もやもやしている様子の椿をどうにかしておく必要があるが……」
「別にいいのでは?メイドさんが張り切っているようですし」
女性官僚はそっけなく言う。
アトムもうなずいた。
「それもそうだな」
年末ということでいろいろ調節することが多くて疲れているアトム。
そんな中、急に入ってきた今回の旅行。
かなり椿に対して『寄っている』人が多いので、いろいろ発散させる必要があることは事実であるが……それでも調節はかなり神経を使う。
「……さてと。私は少し寝るとしよう。実はここ二週間ほど寝ていないからね」
「え……」
「ユグドラシル・ストアの元気ドリンクみたいなものがあるんだが、それを飲めば……ね?」
「そんな『早く君もこっちにおいでよ』みたいな顔をされても困りますよ。それでは私はこれで」
「ああ……」
女性官僚が部屋から出て行った。
「……遊園地に連れて行って、最後の最後にもやもやが解消されれば、問題はないだろう。あとは知らん」
自分がすべきお膳立てはやったと、アトムは椅子に背を預けて眠りについた。




