第九百八十六話
すごい勢いで遊びまわっていく椿。
この遊園地は魔法省という日本政府が一部かかわっていることでかなり広くなっているのだが、その広い範囲に対して、一つの高校の生徒しか入っていないということもあって、ほぼ順番待ちがない状態で遊ぶことが可能だ。
その結果、何かをやろうとして椿が到着するころにはすでに遊ぶことができる状態になっており、それが椿が興奮し続けている要因となっている。
小柄だがパワフルであり、見ていてとてもかわいらしい。
しかも、かなり大声でしゃべっているはずなのに『うるさい』という感情があまりわかない。
……まあ、さすがに銃を乱射するときは何かのスイッチが入るのかうるさくなるものの、その程度である。
いろいろ要因はあるが、全力で楽しんでいるからこそそう感じる部分があるのは事実だろう。
なるほど。これは愛される。
「おー……なんだか暗くなってきてますけど、すごく遊園地の中はきれいですね」
「……そうだな」
観覧車から見下ろす椿に対して疲れたように反応したのは、宗一郎だ。
前生徒会長である宗一郎だが、観覧車の前で椿と遭遇したのでこうして二人で乗っているのである。
「宗一郎さんは感動が薄そうですね」
「まあ、どちらかといえばゆったりしている方がいいと思ってるということもあるが、最近、色々必要なものが終わってホッとしているところだったからね」
「むむ……でも、この遊園地は色々休めそうなスポットも多いですよね」
「この観覧車もその一つだ。というより、ずっと動き続けられる人なんてほぼいないし、そういう意味で休憩所は必要だろう」
「それもそうですね」
窓から下を見て景色を眺めつつうなずく椿。
「椿は、この遊園地は楽しいか?」
「とても楽しいですよ!みんな優しいですし、楽しいものや美味しいものがたくさんありますからね!」
「そうか……」
宗一郎自身、この遊園地に関してはいろいろな場所に回った。
その上で計算した結果だが、ほぼすべてのアトラクションで、生徒の誰かと遭遇する計算になる。
おそらくいろいろなところに回ったであろう椿が、いろいろな生徒に遭遇したのは確定だろう。
「……いろんな生徒と一緒に入ったのか?」
「はい!おじいちゃんと来夏さんがいたときはあれ?って思いましたけど、まあいいかなって思ってバスケで遊びました!」
「そうか……」
宗一郎は内心でため息をつくとともに、それを受け入れつつうなずいた。
とはいえ……現在の宗一郎の意図を考えれば、二人の出現は必要なことである。見ていて寒いから高志には上着を着用してほしいものだが、まあそれは言っても無駄であろう。どうにもならない話だ。
「……そういえば、宗一郎さんは英里さんと一緒にいるイメージがあったんですけど、そうじゃないんですね」
「英里は頼りにされているからな」
「あ、そうでした!宗一郎さんは頑丈なだけですからね!」
「……」
これで悪意がないというのだから朝森家はよくわからない。
まあ、それを注意しようとは思わない宗一郎も宗一郎か。
「集団をまとめてしっかり整理するのは英里のほうが断然上なのは間違いないし、今頃、国枝あたりと話しているんじゃないか?」
「もうそろそろ、宗一郎さんと英里さんは卒業ですからね」
「ああ。フォルノスはポンコツだし……」
「神祖なんてそんなものですよ」
「……」
椿が言うのならだいたいそういうものなのかもしれない。
すごく、失礼な話だが。
「圧倒的な戦闘力があって個人主義なんですよ?求心力なんてそこまでないですって!」
「そこまでいうのか……」
未来で何かあったのだろうか。
椿はあまり根に持つタイプではないし、何かあったのかもしれない。
「ただ、フォルノスの制御は必要だからな。倫理観はしっかりあるようだが、ズレというか、ものさしが違いすぎる」
「え、でも、未来のお父さんは、『人間は神を口でこき使うのなんて造作もない』って言ってましたよ?」
「……」
認められたいと思うのが人間だ。
だが、神は認められなければならない。
いや、ラターグを見ているとあまりそうは思わないが、多くのフィクションで、信仰によってその存在意義を主張する神は数多くいる。
だからこそ、確かに口でこき使うというのも間違ってはいないか。
「……まあいいや。とりあえず、楽しんでいるようで何よりだ」
とりあえず、宗一郎はそう言っておくことにした。
椿の中で、何かがもやもやしているのだということを理解しているが、それは椿が最後に自分で気がつくべきだろう。
(……まあ、好きにさせてみるか)
深入りするものでもない。
朝森椿という少女は、宗一郎にとってはそれくらいの距離で十分である。




