第九百八十四話
高志と来夏が現れたとなると、なんだかこの二人に支配されてしまうそうな空気になるものだが、今回に関しては椿はいろいろな人と遊ぶことに意識が向いている。
エフェクトバスケで遊んだ後は、コートを離れて別のところに向かっていった。
楽しそうにしているのはいいことだ。
ただ……お化け屋敷でも『\(≧U≦)/』となっているのはそれはそれでどうなのだろう。
悪いとか悪くないとかの話ではない。確かに椿らしいと言えばそうなのだが……というか、そもそも椿って何かを怖がるのだろうか。
「……椿ちゃんってお化け屋敷とか平気なんだね」
「全然グロくないですからね」
「なるほど。それはそうだ」
モンスターの中には死霊系統だって当然いる。
中には地上波が無理そうな見た目のやつだっているのだ。
そういう奴らに比べれば、確かにお化け屋敷はそうでもないだろう。
「それに、怒った時のお母さんに比べればなんだって怖くないですよ!」
「……」
正直な話、『怒った時の母親』と『お化け屋敷』の怖さというものは、『どれくらいか』という項目以前に、そもそも質が違う気がする。
それを一緒にして考えるということは……。
(風香ちゃんが怒った時って、お化けみたいな感じになるのかな)
それは単純に失礼である。
「あーでも、ちょっと怖いなって思ったお化け屋敷はありますね」
「へぇ……」
「私が三歳のころに入ったやつですね!」
三歳の女の子をお化け屋敷に入れる両親って……。
「壁も床も天井も内装も全部骨っぽいもので作られてたんですよ」
「……」
「おまけになんだか襲ってくる感覚もありましたね」
(それってお化け屋敷じゃなくてダンジョンじゃない?)
基本的になーんも考えていない椿が三歳のころの話だ。
……いや、今と精神年齢があまり変わらない可能性もあるのだが、風香の背中に背負われた状態で戦っていても不思議は……いや、あるわ。だってセフィアに預ければいいんだもん。というか、『椿ちゃんを一日預かってもらえませんか?』と言われて首を横に振る人がそうそういるようには思えないし。
(……わからん)
かわいさにはピークというものはあるが、椿の場合はずっとだ。
風香は母親として、何か思うところがあったのかもしれない。
……だからと言って納得できるわけではないが。
「それにしても、この遊園地はお化け屋敷でも結構な種類があるんですね」
「凄く広いからね。店内の一部を柵で囲って電車を走らせてるくらいだし」
「それだけ多くなるんですかね?」
「その予定なんじゃないかな。パスにはいろいろランクがあって、単にアトラクションを回るだけならリーズナブルだからね」
というより、魔法省という『国の予算』でテコ入れされているのだ。
まだまだ表に魔法という概念が現れて歴史が浅い。
新しい産業として確かに確立しつつあるが、エンターテインメントとして本格的に取り組むことができるところは少ないのだ。魔法関係の素材の研究をどこの企業もやっているため、遊園地など作っていられない。
そんな状態なので、エンターテインメント産業として魔法を取り入れて強化するために今回のような遊園地が作られている。
まだまだ魔法というものに対して懐疑的に見るものは多いのだ。で、魔法を使って楽しいを供給するために作られている。
リーズナブルといったが、実はけっこう採算が度外視されているのだ。
国が裏にいるので強気である。
「むふふ~♪あっ!あっちのお化け屋敷に入りましょう!」
「えっ……」
椿が指差した先には……『閻魔の狂宴』という名前のホラーアトラクションが……。
(……うわっ。パンフレットでは怖さが最大レベルって書いてる……ドSなスタッフをそろえて提供しておりますって書かれてるし……)
結論、あれはヤバい。
が、関係はない。
「椿ちゃん。ダメだよ。あのアトラクションは18歳以上じゃないと入れないからね」
「え?」
椿がパンフレットを見る。
確かに、そこには『18歳未満の方は入場できません』と書かれていた。
「……むう。おじいちゃんと来夏さんに頼んで中の様子を見てもらった方がいいですかね」
「それは逆にまずいと思うよ……」
こんな冬場にバキバキの特攻服を着た人なんて入ってきてほしくない。お化け屋敷に不釣り合いだ。
まあそうでなくとも、なんだか空気が大幅に変わってしまいそうなのでやめておいた方が良いのは間違いないが。
「むう、仕方がないですね。いけるところをいろいろ回ります」
「それでいいと思うよ」
「では、私はこれで失礼しますね!お化け屋敷めぐりは楽しかったですよ!」
「あ、うん。またね」
一緒に回った人から離れて、椿は笑顔のままダッシュで去っていった。




