第九百八十一話
「いやー……してやられましたよ」
「そうか。まあ、正気に戻ったようで何よりだ」
魔法省のアトムの執務室。
そこには、椿を見て興奮していた自分に対して苦笑している聡子が訪れていた。
「まさか、このような手段で椿ちゃんと関わらせようとするとは……思ったより、遠慮がない方ですね」
「今の風香がどのような経験をするとそうなるのかわからないがな」
「フフフッ。というよりも、そこまで難しいことは考えていないと思いますよ」
「というと?」
「『私が育てた椿ちゃんを見てください!』……といったものが見えますね」
「なるほど」
可愛いからこそ隠すのではなく自慢したい。
椿自身も、関わることを望んでいる。
その結果として、椿はこの時間に長期滞在することになったということなのだろうか。
「……まあ、私よりも君の方が、母親というものをわかっているから、私が予想する意味はあまりないか」
「フフッ。私はみんなのお母さんですからね」
「ただ、子持ちの母親には負けるということを考えると、なんだか……底が見えるな」
「それは仕方のないことなのですよ」
「……そうか」
どうやら本当に、『どういうものなのか』が分かっているのかもしれない。
アトムには到底わからない話だ。
「……ところで、未来の君はレポートを出すように言ったそうだが、椿のレポートはアレでいいと思うのか?」
アトムは椿のレポートの完成品を見てはいない。
ただ、アトムは魔法次官としての都合上、秀星と話すことはあるのだが、その時に話をしてみると苦笑していたので、どうやら『一般的な視点としてまともではない』ということは確定である。
そのため、レポートのクオリティに関しては元からどうでもいいと思っている。
アトムが聡子に問いたいのはそこではない。
そもそもの、取り組むテーマに関することだ。
「別にアレでも構いませんよ?」
「……」
微笑む聡子を見て、一応の納得はするアトム。
一応、未来の風香によって理性が緩んでいたことを前提にするとしても、聡子は椿の神風刃の課題を解決するというテーマに対して反対はせず、一緒に取り組んでいた。
テーマに不備があるというのならその時点で指摘するだろう。
そのため、アレでも問題はないのだ。
ただ、それは問題はないというだけで、聡子が真に求めていることではない。
「……学んだこと。と聞くと、人間は真面目な話をしたがるものだが、そもそも椿に対してそんなことは求めないか」
「そういうことです」
「はぁ……まあいい。おそらくここからは、私たちがサポートをする必要はないだろう。それに……未来のセフィアと、今のセフィアは、限定的だが同化している節がある。椿が『材料』に困ったとしても、それを出しに行くだろう」
「それを狙っていますよ」
微笑む聡子。
アトムはそれを見て、子供の扱い方という点で、聡子には敵わないなと感じた。
天才と称される彼でも、質的に合わないものがある。
椿でも、質的に合わないものはある。
それだけのことだ。




