第九百七十九話
椿は遊ぶといえば本当によく遊ぶ子である。
基本的に『うにゃっはあああ!』とはしゃぎまわっているのだ!
まあ、基本的になーんも考えていないので、こうなるのもある意味で必然である。
レポートから解放されて自分の行動を遮るものがなくなった椿に、敵はいない。
「私ってかくれんぼで最初に見つかるんですけど、なんでですかね?」
別にかくれんぼという遊びが幼稚だといいたいわけではないのだが、それでも『君が自分を何歳だと思っているのかな?』と思わざるを得ない発言である。
「……そうだねぇ。自分の体を大きさをちゃんと把握して隠れてないような……そんな感じがするんだよね」
「そういえば、3歳くらいの頃から隠れる場所を変えてないですね」
((なんでや!))
3歳の頃の椿のかくれんぼ。
考えただけでかわいらしいが、それでも基本スペックがお馬鹿さんである。
「椿ちゃんってかくれんぼけっこうやってるの?」
「小さい頃はよくやってましたよ!セフィアさんも一緒にやってくれます!」
(逆に三歳児がセフィアさんの感知能力から逃れるほうが無理か……)
朝森秀星という最強の男のメイドであるセフィア。
その感知範囲、監視できる範囲はすさまじく、秀星を除く興宮高校の生徒全員が企んだとしても、その詳細をたくらんだ生徒たち以上に理解することだろう。
そんな存在を相手にかくれんぼとは……。
(あとはアレか。椿ちゃんって、なんか姿が見えてなくてもオーラがあるっていうか……)
要するに隠れていたとしても、『私はここに隠れていますよ!』という雰囲気があるというか。とにかくそんな感じである。
こればかりは椿の性質のようなものだろう。
……かくれんぼでは不利でしかないが。
(というか、そもそもジッとしているということができるのだろうか)
そこも問題である。
そわそわモソモソプルプルうにゃあああああああ!となりそうだし。
「椿ちゃん。椿ちゃんってジッとしていることってできるの?」
「私だって子供じゃないんですからそれくらいできますよ!プンプン!」
残念ながら椿ちゃんは子供です(未来永劫)。
「どれくらいジッとできるの?」
「むうう……さすがに隠れるときに時計は持ってないのでよくわかりませんが……大体4秒くらいですね!」
(短っ!)
絶望的すぎる。
少なくとも『写真撮るからジッとしててね』といって無理なタイプだ。
セフィアが未来で写真を撮るためにすごく頑張っているのが目に浮かぶ。
(いや待て、そもそも4秒って寝ることすらできないじゃん……いや、なんか枕に頭を乗せた瞬間に寝てるからそれでも問題はないのか?そもそも……椿ちゃんの4秒が実際の4秒とは違う気がする)
「椿ちゃん。ちょっとストップウォッチ使ってみるから、20秒たったら返事してくれる?」
「む?わかりました!」
というわけで、女子生徒はスマホを取り出した。
「よーい、スタート!」
宣言する女子生徒。
……で、実際に4秒が経過するとそわそわし始めているのがなんともアレである。
(……数えるときに口から声に出さないタイプなんだね……あ、もうそろそろ30秒)
スマホを見てもうそろそろ30秒であることを確認する。
そして……30秒!
くううううぅぅぅぅぅ……
体の力が抜けそうな音が椿の腹から響いた。
「ブフッ!」
想像の斜め上を行く結果に噴き出す女子生徒。
「む……むむむぅ……はいっ!」
「ストップ……45秒だね」
「そんなバカな!」
腹時計は正確だが感覚のほうはルーズすぎた。
……あー椿らしい。
……いやちょっと待て、腹時計ってそういうものじゃないぞ。
「そういえばおなかがすいたです!」
現在、10:46。
時間管理が適当な椿にとっては昼前と言えなくもないのか……かなり謎である。
「あ、うん。セフィアさんなら弁当を用意してるだろうし、今日はもういいよ」
「わかりました!それでは!」
椿はバヒューン!という効果音が似合いそうな初速で去っていった。
ちなみにめちゃくちゃ笑顔である。
「……不思議な子だなぁ」
かわいいよりも上に不思議がくることもある。
……まあ、そんなものだろう。だって椿ちゃんだからね!




