表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
978/1408

第九百七十八話

「レポートが完成したですううう~~~っ!」


 椿が用紙を掲げて咆哮する。

 場所は教室である。


「おっ、できたんだね。椿ちゃん」


 現代の風香が話しかける。


「はい。できましたよ!見てください!」

「どれどれ……」


 風香はその内容を確認する。

 まあ、最初の方は前と同じか。と思ったのでそのあたりは斜め読みしながら、目線を下に向けていった。


 ★


 過去留学レポート

 沖野宮中学校三年四組 朝森椿


 レポートのテーマは神風刃の課題についてです!


 私は過去で半年間くらい学びました!お母さんに私が使っている神風刃を見せたところ、とーんでもない速度で私よりも実力を高めてしまったのです!さすがお母さんです!ただ、ここから私は「お母さんが神風刃を理解した過程」を教わることで、今以上の実力を発揮できるのではないかと考えたのですよ!

 神風刃は私がこれからも使っていく戦闘手段です。過去に行ってお母さんから学んだことで、強化した形態である『儀典神風刃』というものを習得できましたが、こちらもお母さんの方が実力が高いのです!なんてこった!

 感動すると同時に、私はお母さんの習得方法を客観的に判断することで、今以上の実力を手にするきっかけになると考えました!未来のお母さんは二刀流が基本になって私とは戦闘スタイルが異なっているので、まだ一刀流の剣術に対して慣れが強い過去のお母さんが傍にいるこの環境を活用できるということでもあります!

 そんな感じで、私は神風刃の課題というテーマを設定し、これを明確にすることをこのレポートのテーマにします!


 まず「旋風刃」とは何か。「神風刃」とは何かということですね。


 神風刃についての課題を早速……と言いたいところですが、そもそも神風刃は旋風刃の「再編版」ともいえる形態をとっています。そのため、まずここで二つの戦闘技術についての定義を明確にします!


 まず旋風刃は、お母さんの実家である八代家に代々伝わる戦闘技術です。

 刃の形をとる風を発生させて、それを飛ばしたり、刀や体に纏わせたりして戦います。様々な技がある……のではなく、剣術として様々な方向から刀を適切に振る反復練習と、状況に応じた風の形を定めて発動するというコンセプトによって成り立っています!その場その場で決めている、言い換えれば臨機応変を軸としたものになっていて、基本的には風を発生させることを戦闘手段に組み込んでいきますが、旋風刃には風を軸として様々な属性を混ぜて戦う技術も存在します!これにより、より臨機応変という点において幅が広くなっているということです!

 まとめると、1つ目に「八代家が継承する戦闘技術である」こと、2つ目に「剣術に斬撃属性の風を併用する戦闘技術である」こと、3つ目に「風を軸とする場合、他の属性を混ぜることもできる」ことの3点にまとめることができます!


 次に神風刃は、私が戦うために、お母さんが使っていた旋風刃をお父さんが改良して作った物らしいです!八代家の戦術指南書には、旋風刃の派生系統として書かれていますよ!

 基本的な戦闘スタイルは旋風刃と変わりません。風を纏ったり飛ばしたりして、その場その場に対応する技を駆使して戦います!

ただし、風を軸として様々な属性を取り入れる旋風刃と異なり、神風刃は風属性に絞って戦っています。


 外見的にはそのくらいしか変わりませんし、それだけを言ってしまうと神風刃は他の属性を混ぜないゆえに戦術の幅が狭くなっていると思われるかもしれませんが、「戦闘コンセプト」ではなく、「発動コンセプト」に目を向けると、大きく異なるのです!


 旋風刃を使う場合、風属性魔法を使用します……神風刃もそうですけどね!

 多くの属性の魔法は「その属性そのものを発生させる」ということを行います。火属性なら火を起こしますし、水属性なら水を発生させます。風属性は「風」ですが、風というのは単なる空気の流れで、空気を生み出す必要はないわけです。ただし、多くの風属性魔法は、空気そのものを生み出しています。

 この発動コンセプトのメリットは、そもそも大量の空気を認識して動かすという、『反射的にやりにくい手段を取らない』ということです。

 戦闘というものはかなりスピードがあります。ちんたらやっている暇はないのです!

 空気そのものを作り出して飛ばすということを行うので、わざわざ他から風を調達するということがないわけです。これによって、反射的に風を巻き起こすということが可能になります。


 しかし、旋風刃はこのコンセプトを取らずに、『周りの空気を動かして風にする』というコンセプトを取っています。

 旋風刃は今でこそ、風を飛ばしたり纏わせたりする戦闘手段を取っていますが、戦術指南書の最初の方を読んでみると、「まわりの空気を操作することで、自分が体を動かしやすい環境を構築しつつ戦う」というコンセプトになっているのです!

 体を動かし、刀を振る際の空気抵抗。的確に酸素を取り込むための呼吸補正など、体を動かすという行為にはこれらの要素がかかわってきますが、多くの戦闘方法ではこれらに「適応」する形で成り立っています。しかし、旋風刃は適応するのではなく、それらを操作することで自分にとって有利にするというコンセプトで最初に作られました。


 なお、魔法では軽いもの作ったり動かしたりする場合、重いものよりも魔力の消費効率は低いです。そして、演算能力を除いて魔力の燃費という視点では、精製よりも移動のほうが効率がいいのです。

 反射的にはできないというデメリットはあるのですが、何が言いたいかというと、「空気を作り出す魔法」と「空気を動かす魔法」では、「空気を動かす魔法」の方が消費効率が良いのです!


 この魔力量の効率を前提にして、作業効率が高い空気を動かす風属性魔法で戦術を組み立てた時に余った魔力を、「他の属性を生み出して組み込む」ことに使うことで、旋風刃は風属性を軸として、他の属性を使うことができるのです!


 これに対して、神風刃は空気を生み出してそれを使うというコンセプトになっています。

 先述した通りのメリットがあるので、急激に変わる状況にも対応できるようになっています!

 作り出す空気は攻撃に使うための特別製で、性能も高めなのですよ!むっふー!


 このコンセプトがあることを軸にして、課題を提示していきます!


 私はこの段階で、近くのダンジョンに向かいました。

 ダンジョンの性質は『煉瓦の壁の通路型』『モンスターは単体で出現』という、魔法省が提示する『オーソドックスなダンジョン』の枠に入っている形式です!


 神風刃のみを戦闘の軸に据えて戦っていたのですが、『鋼鉄で出来た人形』のモンスターに遭遇しました。

 内部にコアがあるのですが、多種多様な攻撃を繰り出せる神風刃の出力では、このコアまで攻撃が通らないのです!聡子お母さんが木製の扇子で叩いたらバラバラになるというのに!アンビリバボー!


 ただし、バラバラにする必要はありません!その場ではコアを貫くことができればいいのです!

 神風刃に足りないものは、『貫通力』です!

 神風刃は空気そのものを作り出して、それを飛ばして攻撃します。

 よって、作った空気に『貫通力強化』を与えることで、コアに届かせることができます!

 このような属性を与える場合、採用候補となるのは『付与魔法』です。

 情報的に『貫通力を上げる』という処理が行われるため、当たった段階で相手が『面』に対して強くても、『点』に対して的確にダメージを与えることができます!


 ただ問題は、もともと神風刃が他の戦闘手段と同時に使うコンセプトになっていないことです。

 元々神風刃は汎用性が高い戦闘手段であり、作り出す空気そのものの性能は高いものになっています。


 要するに、神風刃と貫通の付与魔法を併用する場合、単に神風刃を使うよりも時間がかかるのです。一秒にも満たない時間ではありますが、人形がいた階層はかなり深いこともあって、スピードもそれ相応にあります。


 この問題を解決するために取れる手段は二つです。


 一つ目は、貫通の付与魔法……いえ、これからも多様性を上げていくことを考えれば、『付与魔法』全般でもいいでしょう。これと神風刃を同時に行使できるように新しく作ることです。

 ただ、この方法は時間がかかる上に、私の今までの感覚の再調整も必要です。将来的に必要な場面もあると思うので、考えておくに越したことはないですが、そこで一度止めておきましょう。


 もう一つは、『神風刃の中に、相手との距離を取れる技を開発する』ことです。


 相手との距離を取ることで間合いを稼いで、空気と付与魔法を構築。もともと『接近』のための技はあるので、間合いを稼いで作り上げた貫通力強化が付与された空気を使い、相手に技を叩き込みます。

 この方法であれば、今の私の戦術に組み込むことはできます。

 しかし、この方法に問題がないというわけではありません。

 当然、モンスターも自分の防御力の限界を把握していますし、付与魔法が一体どのようなものなのかがばれたら、モンスターも警戒力を上げるでしょう。


 ……めんどくさいですううううううううう!


 神風刃の上の儀典神風刃を使えば、人形だってブッ倒せるんですよ!これは事実なんですよ!神風刃で倒そうと思ったらどれほどめんどくさいか!むううううう!

 ここまで面倒だとは思ってなかったですよ!

 人形一体くらい別に無視して突き進んでもいいんですけど、課題を設定するという目的で遭遇してしまったがゆえにここまで考えなければならないとは!確かに、神風刃は多様性を軸にしていますから、いずれ決定打がないということで悩む日は来るだろうと何となく予想していたような気がしなくもないような……む?

 とにかく、このタイミングでその問題を追及することになるとは。もちろん、新しい戦術を戦闘に組み込むとなれば、それ相応の苦労は伴います。

 戦闘というものはかなり高速です。一秒を無駄にするとその隙に敵が有利に動くなどということはザラにあります。未来のお父さんは『俺くらいになるとコンマ一秒あれば勝ち確くらいは常識だぞ』と言っていました。私にどうしろって言うんですか!コンマ一秒って、私、刀を一回振り切ることすら難しいですよ!お父さんは常識とか社会的通念とか論理的整合性とかわかってないですよ!むにゃあああああ!


 とりあえず必要なことは分かりましたよ!『貫通力強化』の付与魔法を使うための時間稼ぎとして、距離を稼ぐことができる技の開発です。

 これをすることで、神風刃を軸として例にした人形ぶち抜くことができます!


 決定打……というより、貫通力を上げることでしっかりとした『ダメージ』を通すということは戦術に組み込むことができるようになりました。あとは私の反復練習だけですね!


 なんか二千文字くらい足りませんが、まあいいですね!セフィアさんに聞いてみましたが、私のテヘペロ写真を載せておけば大体何とかなると言っていたので、それでごり押ししますよ!


 ★


「……」


 風香の表情は『正気か?』という疑問を抱いていることを示している。

 そして、実際にレポートの下の方には、『テヘッ☆』という写真が張り付けられていた。

 とても可愛らしいし、実際にセフィアが加工しているのだろうか。どこか補正が入っており、とっても可愛らしい。


「どうですか?」

「う、うん。まあ、良いと思うよ」


 実際、最初に『課題を提示する』と書いており、結論として何をすればいいのかまで書かれている。

 レポートしての体裁は保っているだろう。いや、最後のテヘッ☆でかなりぶっ壊しているような気がしなくもないが、椿が書いたということを考慮するとギリギリ……ギリギリでまあどうにかならなくもない。


「秀星君。どう思う?」


 読んでいる風香の表情から『とんでもないもの』だということを想像した様子の秀星。

 まあ、四千文字くらいなら秀星はすぐに読める。


「……ブフッ!」


 最後の写真を見て吹き出す秀星。


「え、どこか悪いところがありましたか?」


 要するに、椿はこのレポートで何の問題もないと考えているようだ。


「……まあ、うん。良いと思うぞ」

「むふふーん!本を一杯出してるお父さんが良いということは、本当に大丈夫みたいですね!」

「……」


 秀星は自分の反応の責任の重さを今実感した。


「よーし!これでレポートは大丈夫ですね!単位は全て大丈夫です!あとは思いっきり遊びますよ!」


 椿がとても元気な様子だ。

 椿のレポートを見ずとも『きっとやべえんだろうな』ということが分かっていたクラスメイト達だが、椿が喜んでいるので良いということにした。

 どのみち、過去留学の制度上は求められていないレポートだ。多少ヤバくても問題はない。はずである。よね?未来の聡子お母さん?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ