第九百七十四話
「お父さん!私、魔法省のレストランで、働いていた女性職員全員とぎゅうううってしたんですよ!」
「……」
夜。
なぜか家に未来と現代の風香が帰ってきていないのを訝しげな眼をして考えていた秀星だったが、帰ってきた椿からの報告によってなんとなく状況が分かったが、返答に困った。
ついでに言えば、椿の体からいろんな香水のにおいがする。
女性職員とハグってきたということに嘘はないらしい。もともとわかりにくい嘘をつける性格ではないが。
「……楽しかったか?」
「はい。とても楽しかったです!わふううう~~~!」
まだ興奮している様子である。
……まあ、楽しかったのならそれはそれでいいのだが……。
「レポートは進んだのか?」
「はい。すすんでいますよ!」
進んでいるのは事実である。途中で完全に止まったこともまた事実だが。
「ならいいんだが……まあ、椿だし大丈夫か」
「むっふふ~!」
嬉しそうな様子でずっと笑顔の椿。
「……で、風香たちはどうなってるんだ?」
「どうなってるんですかね?」
寝ている間にアトムが誘拐したので椿は分かっていない。
「一応聞くんだが、どうやって帰ってきたんだ?」
「アトムさんが運転してくれたのでそれに乗ってきましたよ!」
「魔法省から出る時、変な道を通らなかったか?」
「魔法省の地下にはすごい通路がありましたよ!」
「……」
神器の世界地図を出して確認する秀星。
確かに、魔法省の地下には通路がある。
ついでに言えば、隠蔽系統の魔法もびっしりと構築されている。
魔法を組み上げたのはアトムだろう。高度な技術と視点がなければ構築できない結構エグイものがたくさん構築されている。
まあ、アトムなら未来の風香がどれほど強かろうと、どういう『感覚』なのかが分かるはずである。
(ダミーがいろいろあるな。今頃はこっちに誘導されてるころか)
そこまでわかったが、秀星は放置することにした。
「秘密がいろいろ多いんですかね?」
「まあ多いだろうな」
「あ、そういえば、アトムさんから手紙を預かってますよ」
「ん?」
親展とかかれた開封済みの袋を渡してくる。
それに対してフフッと笑いながら、秀星は受け取った。
高志に魔法省専属となる話を持ち掛けたのは秀星だ。その返答といったところだろう。
暗号文で書かれており、椿は見てもわからないだろう。
「……ふむ」
「なんて書かれてるんですか?」
「持ち掛けた話に同意するということと、俺がかかわってる商売に関して議論したいって内容だな」
「むう、いろいろあるんですね」
「だな」
ついでに、十五人抜きした椿のレストランでの食費の請求書も同封されている。
一応、魔法省での証明書があれば利用はできるのだが、さすがに大食いバラエティができるほど食べることは本来不可能である。
作る方も大変だし、材料も時間もかなり必要なので。
ただ、保護者が秀星なので何とかなると思っていたのだ。実際に何とかするけど。
(いったい何やってんだか……)
椿のことだ。
別にその場では何が起こっても不思議ではない。
何かあっても椿が『てへっ☆』とやれば何となく許してもらえるだろう。それも問題だが。
ただ、さすがに十五人抜きチャレンジが勃発するとは思っていなかった。
「なんだか。とってもハグハグしたいですううう~~~っ!」
椿の方に禁断症状が出てきているようだ。
叫ぶと同時に家を飛び出していった。
ハグハグしたいといって家を飛び出すあたり、『自分の家』と『外』と『他人の家』の区別がついていないのかもしれない。何となくそう思う。
「……セフィア。護衛よろしく」
「畏まりました」
セフィアの声だけが聞こえた。
おそらく椿の監視に行ったのだろう。
「……将来、どんなふうに生まれるのかはともかく、ああなるように育てるのか。大変だなぁ……」




