第九百七十三話
「むっふーん!」
……椿が興奮している。
「大食い勝負十五人抜きですううう~~~っ!」
というわけで、食堂では十五人の男性がぐったりしていた。
「ど、どうなってるんだあの胃袋」
「あの細い体のどこに入ってるんだ……」
「ギャグ補正っていうまだ解明されていないスキルを持ってるってことは聞いてるけど、それだけだと説明できないだろ……」
魔法省の官僚は、その多くが頂上会議時代からアトムにこき使われてきた精鋭たちだ。
だが、椿のような例外中の例外のような存在は、さすがにわからない。
「むっふふ~!第二ラウンドもいけますよ!……ゲエエエェェェップ!」
大きくゲップした椿。
……あまり大丈夫そうには見えない。
ていうか結構今の時点でやばそうに見える。
このままだとヒロインじゃなくてゲロインになっちゃうからやめておいたほうがいいよ。
「……椿ちゃん。次官も待ってるだろうし、そろそろ部屋に戻ろうよ」
女性職員が話しかける。
さすがに止めておかないと椿がリバースしてしまう可能性もある。
無理をしている様子が全くないというのも考え物だ。
「む~……そうですね!」
ニパッ!と笑う椿。
女性職員(状態異常:重度の疲労)には効果が抜群だ!
「はぁ~~……」
「ちょ、昇天してるって!戻ってきなさい!」
「いたっ!」
別の職員に頭をしばかれて戻る女性職員。
「む?」
よくわかっていない椿。
「あ、椿ちゃん、私が連れて行ってあげるからね。でもちょっとその前に、私のことギューってしてくれないかな」
「むっ!……ぎゅうううううう!」
「あああああかわいいいいいい!」
「ちょ、アンタなにやってんの!」
「うらやま……けしから……うらやましい!」
「私に代わりなさい!」
椿のところに女性職員が群がってくる。
「むっ!……むにゃああああああああ!」
奇声をあげてもみくちゃにされる椿。
普段からアトムに対する愚痴と恨みが積もり積もっている中で放り込まれた一匹の獲物だ。
なんだか何をしても犯罪にはならないような気がして、いやぁ、つい。といった動機で椿を引っ張りまわしている。
ちなみに椿だが、なんというか……『\(≧U≦)/』となっているので、結構喜んでいるようだ。
基本的にパーソナルスペースがゼロといえるような状態なので、肌と肌が触れ合うことに関して躊躇はない。
性格を考えれば、誰かに抱き着いているほうが気持ちがいいのだ。
あと、基本的にお母さん大好きなので、抱き着く相手は女性のほうがいい。
男性に関しては、大好きなお父さんは未来でもかなり外見が若いので(エリクサーブラッドの影響)、若い男性によく抱き着く。時々アトムを無視するときがある。
というわけで、もみくちゃにされているが、椿にとっては楽しいのだ。むしろ未来ではちょっと目を離すとこうなることも多い。
「にゃうううううう!」
これがどういうことかというと……椿が全く逃げようとしないということである。
むしろ、触れている人が多いほうがいいので、椿のほうが逃がさないまである。
★
「次官!大変です!」
「……ああ、騒がしいから聞こえているよ」
椿が使っていた応接室は二階だ。
一回のレストランの喧騒は、よほど騒いでいるとよく聞こえる。
「椿。すげえなぁ」
「そうだな」
レポート作成の休憩中であるという考えはすでにないのだろう。
「……どうするんだ?」
「別に、今日明日で書かなければいけないわけでもない。書こうとして数日だけで、とりあえず取り掛かれる段階になってるんだ。好きにさせてもいいだろう……私だって、ほかの会議の資料を作る必要はあるからね」
「それもそうか。んじゃ、俺は帰りますかね」
高志は立ち上がった。
「……魔法省専属という話だが、今日中に準備しておこう」
「ああ。よろしく」
高志は部屋を出て行った。
すると、ドアに残されていた側近の男性がアトムを見る。
「……どうしますか?」
「しばらく続くだろう。変な『予感』があって、今日は特に誰かと会う予定にしていない。資料でも作って待っているさ」
「わかりました。まあ、法律の範囲で済ませるように食堂の連中に言っておきますよ」
「任せる」
側近の男性はドアを閉めて去っていった。
「……人を引き付けるというより、人を狂わせているのに等しいな……いや、過労が原因の一部だから私が言うのは反則か」




