第六百七十一話
さて、椿も起きたということで、アトムは先にそっちを済ませることにした。
「……あれ?私は聡子お母さんが入れたコーヒーを飲んだら急に眠くなってきて……あれ?なんで私は魔法省の応接室にいるんですかね?」
「……」
先に誘拐されてたんかい。と思うアトム。
思ったより聡子の本気度が尋常ではない。
ついでに言えば、椿に『理性を緩めさせる波動を放出する魔法』がかけられていたことにアトムは気が付いていたが、それをかけた未来の風香も結構ガチである。
もっと平和にできないのだろうか。
あと、ここが魔法省の応接室だってわかるんだね。
「……椿はドジだなぁ」
「むっ!おじいちゃん!」
なんでいるの!?という表情で高志を見る椿。
これに関しては正しい。あまりこういう場所には来ない人だ。
「まあ、いいじゃねえか」
「む~……そうですね!」
いいんだ。
というより、アトムから見れば……椿は、大体のことはどうでもいいのではないか。と思ってしまう。
別にそれが悪いというわけではないのだが、ここまで一度興味を持ったことをどうでもいいこととして処理するというのはどういうことなのだろう。
「とりあえず、レポートを作成する必要があるからな……」
「レポート?」
「未来の聡子お母さんに提出するレポートですよ!」
「今のところどんな感じになってるんだ?」
「むぅ……これを見てください!」
椿は現段階で出来上がっているレポートと、メモをいくつか取り出した。
メモには貫通力を上げる付与術というキーワードが一番強調されるように書かれている。
「……ほぼ出来上がってるようなもんじゃね?」
特に表情を変えることなくつぶやく高志。
明確な課題を提示すればいいのだ。それを考えれば、すでに終わっているようなモノである。
ただ、この『椿感』があふれ出るレポートを見ても、頬一つ動かさない高志の感覚は真似できないものだろう。真似したいわけではないが。
さすがに高志も、椿のような体裁で文章を書くことは不可能だ。結局書くのは椿ではあるものの、何を書けばいいのかは決まっている。
「そうですかね?」
「ああ」
「で、この文章の体裁はどうなんだ?」
「このままでいいだろう。提出先が提出先だ」
「なるほど」
本当に、何を思ってこのレポートを出すように言ったのだろうか。
まるでわからんが、それはいつものことである。
「しかし、課題ねぇ……」
「高志さんにはないか」
「まあ、ねえな。だって……解決できないことがほぼねえし、息子の秀星の人脈がすごいからな。俺が言うのもなんだが、何でもかんでも自分で解決する必要はねえぞ。多分俺は秀星に勝てねえだろうが、だからと言って何か困っていることがあるのかって言われるとそうでもないしな」
「まあ、確かに」
秀星は最初は安定していない印象があった。
最近も時々そうなるときがあるのだが、遊ぶときはしっかり遊んでいるうえに、結構容赦がない。
そのため顔も広いわけだ。
正直、神々に対しても人脈があるとなれば、影響力に上限はない。
そんな男の父親だ。しかもこの性格とスペックである。
高志という人間は、課題などを考えるような、軟な精神構造ではない。
「おじいちゃんって改善点がないってことですか?」
「そういうことだな!」
「政府機関の本部に特攻服で上がり込んでくる精神構造のやつに何言っても無駄だからな」
「……アトム。もしかしなくても疲れてるのか?」
「……否定しない」
現代と未来の風香、そして聡子の三人によって椿ちゃん争奪戦が勃発しているので、どうしたものかと思っているのだ。
三人ともめっちゃ強いし。
(まあ、最終的にはお尻ぺんぺんでもやっておくか)
痛覚を上げて、手に魔法で電流を流しながらしばいたら問題はないだろう。
散々迷惑をかけられているのだ。時々肉声言語が通じないし、そうなった場合は肉体言語だってやります。
「……アトム。黒いオーラ漏れてんぞ」
「これは失礼」
疲れがたまっているようだ。
……まあそもそも、絶大なスペックを誇るアトムは基本的に疲れないので、ストレスがたまるとこうなるのかもしれない。
「あと、椿、一ついいか?」
「む?」
「俺ってそんなに加齢臭キツイか?」
「むう~……」
椿は高志に急接近してクンカクンカとにおいをかぎ始めた。
絵面がヤバいことになっているが、アトムは無視することにした。突っ込んでもいいことはない。
「……ちょっとしますけど、そうでもないですね」
「だよな」
別に気を使っているというわけではない。
まあ、二月下旬に上半身裸で特攻服を着ているだけという不自然な人間性を除けば、ワイルドなナイスミドルといったところだ。
ある程度外見を気にする年ごろかもしれないが、別に高志はそういう人間ではない。
ちょっとしかしないというのは純粋に体質の問題だろう。
「まあ、未来のアトムさんほどではありませんよ!」
「……」
「アッハッハッハッハッハッハッハ!」
未来のアトムの加齢臭ってそこまですごいのだろうか。
まあ、パーソナルスペースがほぼゼロ距離で誰にでも抱き着く椿が言うのだ。
間違いない!!




