第九百六十九話
「……次官。結構大胆ですね」
「いいから君は部屋を用意してくれ」
アトムが持つ第二の神器、『どこにも扉』である。
元ネタは分かり切っているので解説はしない。
……というか、元ネタにされすぎてご愛嬌のような部分もあるが、それはそれだ。
上位神が作ったものでその性能は高く、『自分が住んでいる星で、気体しか存在しない場所につながるドアを設置できる』というもの。
気体だけとかかれているが、一時的にでも空気の用意できる場合は水中であっても用意可能である。
ちなみに、使用者の主観による部分もある。
安全処置のためという部分もあるのだ。
例えば、『気体型のモンスターの中』だったり、『あくまでも燃焼中の気体である炎の中』にドアを作ってしまうと、ドアを設置した段階で『とーんでもないこと!』になってしまうため、アトムはその状態ではドアを使うときに『気体だけ』とは認識しない。
逆に、わずかながら分子が存在し、『絶対真空』ではない宇宙空間であっても、扉の設置は可能である。
一部の官僚からは、「剛速神剣タキオングラムとどこにも扉が並ぶと字面がエグいな」と言われるが、それはそれ。
側近の男性は知っているので、急に扉が現れても違和感はない。
やけに慣れた手つきで少女をお姫様抱っこしてきたとしても、驚くことはないのだ。それもそれでどうかと思うが。
「みゅう~……」
椿がアトムの体に顔を押し付けてくる。
なんだかにおいをかいでいるような気がする。
「アトムさん……今日は加齢臭がしないんですね~……zzz」
「……」
アトムは一瞬、聡子がいたあの拠点に直送しようかと思ったが、それでは話が進まなくなるのでこらえることにした。
二十歳であるアトムは成人していてもまだまだ社会的に大人としては扱われないような年齢ではあるが、我慢することはできるのだ。
「ブフフッ。じ、次官が加齢臭って……まだ二十歳なのに、アハハハッ」
側近の男性が笑いをこらえ切れないようだ。
一応、椿が未来からきた人間だということを知っているので(ほぼ公然の秘密のようなものだが)、もちろんアトムの加齢臭は二十年後の話であることは分かっている。
だが、アトムに対してここまで遠慮がない人間というのも珍しいため、こらえられないのだ。
アトムは圧倒的な才能があるため、他者の追随を許さない。
のだが、理想と実力のバランスをとる才能が最高レベルに高いのが椿という少女であり、嫉妬も妬みもないのである。ぶっちゃけ、アトムがすごいことは分かっているし頼りにしているが、遠慮はしないのだ。
「残業増やすぞ」
「す、すみませんって……」
側近の男性は三十代半ば。
大臣の一つ下である次官のアトムの側近ともなれば相当なエリートで、それを考えればまだ若手ともいえるが、二十歳であるアトムに対しては一歩引いて接するしかない。
だって怒らせると怖いからね。
怒鳴り散らすようなことはないのだが、建物のすべてを支配するかのような『無言の圧力』を発するため、すごーく怖いのである。
ちなみに、残業を『増やす』と言っている以上、最初からあるようだ。
ブラック省庁である。
「とりあえず、僕のほうであちこちに電話してセッティングしてますから、これ、鍵です」
そういって、鍵のタグを少しだけアトムに見せると、アトムのポケットにカギを突っ込んだ。
「それじゃあ、僕はまだ書類があるんで」
「ああ……」
側近の男性は目の下の隈をこすりながら歩いて行った。
アトムはそれを見送った後、鍵のタグの内容を思い出してそこに向かう。
ちなみに、ここに来るまでにそこそこ多い人数と通りかかっており、三度見くらいされ続けているアトムだが、特に気にした様子はない。
鋼の心臓である。
(……さて、この部屋だな)
簡易的に用意される応接室の一つだ。
ドアノブをひねって中に入る。
「おっ、アトム。お疲れさん」
「……高志さん。何故あなたがここに?」
応接室に待っていたのは、秀星の父親にして椿の祖父である朝森高志であった。




