第九百六十七話
「はぁ。この忙しい時に元気なものだ」
迎えを側近に頼んでスマホをテーブルに置いたアトムは、ぐったりした様子で椅子に深く座る。
去年、魔法という概念が表に出てきたことで、日本政府は裏で『頂上会議』と名乗っていた組織を『魔法省』という形に持ってきた。
その際、他の省庁とのかかわりもあるため東奔西走していたため書類もまとまっていなかった。
正常に魔法省という組織が形になって、初めての『年度末』ということで、かなり忙しい。
アトムは二十歳で大学生で言うと二回生だが、魔戦士教育系統の大学に在籍しており、基本的に実力が求められるため、単位などすでに全部取っているのだ。卒論は一分で書いた。
魔法次官としてデスクワークをしている時間の方が長く、仕事は膨大である。
秀星が出てくるまでは、日本最強の魔戦士はアトムだった。
そのため、『魔戦士運営責任者』という立場と『日本の最高戦力』という二つを両立させる必要があり、どう考えても体が一つでは足りないのだが、秀星が出てきたことで、アトムは魔法次官として時間を投入することにしている。
なお、魔戦士チームとしては『ドリーミィ・フロント』という四人のチームを作っているが、今は解散していないものの、全員がソロで活動している。というか、全員が戦うことが本業ではないという微妙な立ち位置だ。
(……ここにきて、椿のレポートか)
未来の聡子が提出先なのはアトムの予測としては確定である。
おそらく椿と話しているうちにわかることだし、逆算してどのようなレポートにすればいいのかもわかっている。
が……このままでは進まないだろう。
(まあ最悪、頑張った跡が見えたら問題はないだろう。提出するのが椿だからな)
根は真面目で素直だが、土台そのものと表面がおバカさんなので、こればかりはアトムにどうにかできるわけではない。できるのなら未来のアトムがどうにかしている。
(とりあえず……椿がこの部屋に入ったあと、あの三人を入れないようにするか)
未来の風香がいろいろ刺激してしまったので、大変面倒なことになっている。
大体、そうなるだろうとは思っていたのも確かだが。
ただ……現代と未来の風香、そして聡子を相手にするとなると、アトムとしても面倒だ。
三人ともとんでもなく強い。
しかも……未来の風香は、『神祖』の神器持ちだ。
アトムだって神祖を相手に戦うことができるわけなので、勝てないと言いたいわけではないが、純粋に、戦いが無意味なもので出来ているのでため息が出る。
「はぁ。仕方がないか」
アトム自身も神器使いである。
使っている神器は、最高神が作った神器の一つである『剛速神剣タキオングラム』だ。
能力はシンプルなもので、『ただただ、速くて重い斬撃を叩き込むことができる』というものである。
才能という意味で圧倒的なアトムが出力を出せるということで、純粋にこれだけ使っても強いのだ。
だが、持っている神器はこれだけではない。
純粋な戦闘に使うタイプの神器ではないのだが、いろいろな意味で『収拾がつかなくなった時』に使える神器を持っている。
(……聡子も知らないものだが、未来の風香は知っていそうだな。はぁ。可愛いのも考え物だな)
アトム個人としても、椿と接するのは悪いとは考えていない。
考えていないが……全てを納得できるかとなるとそれは別である。
「……ん?」
着信音が鳴った。
側近からである。
「もしもし。私だ」
「すみません。次官……先を越されました」
「……私が誘拐してくるから、君はセッティングしておいてくれ」
「畏まりました」
通話終了。
「……はぁ」
アトムはスマホをポケットに突っ込んで重い腰を上げた。
「時間がないのわかってないな。あいつら」
そういうものだ。とは思う。
手綱を握ろうとすると苦労する相手だし、こちらが遠慮しなければならない部分はあるだろう。
だが、アトムにだって主張はあるのだ。




