第九百六十六話
ベッドで
「お母さん。魔力を増やすにはどうすればいいんですか?」
「聡子から言われていたのは、『大きな貫通力を得るために魔力量が足りるかどうか』ということで増やそうって発想になったのよね」
「そうですよ!」
元気よくうなずく椿。
どうやら……その話をしているときに未来の風香がそばにいなかったということに関しては記憶にないようだ。大丈夫なんだろうか。
「その増やすのも未来ですべきなのよ。だって、今のところ課題を設定しただけなんだから」
「!」
厳密にいえば、未来ですべきことを明確にするために『具体性』を追求する必要はあるが、実際に過去で行動を起こす必要性はない。
あまりにも的外れなことをしても意味はないので検証は必要だが……。
「それに。そもそも大きな貫通力を付与するために、『今以上の』魔力が必要かといわれるとそうでもないのよ」
「む?」
「椿ちゃんの魔力はもともと常人より多いのよ」
「まあ、それはよく言われますけど……」
「それに、レポートって言ってるけど、あくまでも椿ちゃんがやっているのは『課題の設定』なのよ。だから、付与術で貫通力を得ることが必要だってわかった時点で、レポートはかけるのよ」
「!」
その発想はなかった!と言わんばかりに口を大きく開けて唖然とする椿。
「というわけで、レポートを書いてみましょうか」
「わかりました!むっふふ~♪」
(フフフッ。計画通り。この時代の聡子がどこまで思いつくのかなんて最初からわかってるからね。あとは過去の私を追い払えば、私が椿ちゃんを独占できる!)
椿のレポートが主目的なのか、椿の争奪戦がメインなのか。いまいちわからなくなってきているが……まあいいとしよう。
「というわけで、続きを書きましょ――」
「「謀ったなこのババア!」」
「あ、やべっ、ばれちゃった。帰ってくるのが早いのね」
現代風香と聡子が帰ってきた。
というわけで、追いかけっこは加速する。
さすがに未来の風香を相手に、聡子と現代風香は単体では及ばないので、二人で追いかけることになった。
窓の外から飛び出していった未来の風香を追いかける二人。
「……むう?」
状況がよくわかっていない椿。
さて、現代の風香と聡子、そして未来の風香がいなくなるというこの状態。
椿はいったい誰に頼るのか!
「……あ、もしもし、アトムさん。みんないなくなったんですけど、どうすればいいですか?」
「なんで私に振るんだ……」
アトムに電話した椿である。
ちなみにコール一回目で出たあたり、『どうせすぐにかかってくるだろうな』と考えていたようである。
「とりあえず、みんないなくなったというのはどういうことなのかな?」
「ええとですね……」
とりあえず説明していく椿。
ただ、椿は三人が母性フル稼働状態であることが分かっていないのでちょっとズレがあるものの、聡子と、現代と未来の風香がそろった時点でそのような現場になるのかはアトムにもわかっている。
椿が未来に帰らなければならない時期が近付いているため、未来の風香が『帰還欲求』を刺激するためにいろいろ手を打っているそうなので(とてもそうには見えないが)、それも加味したうえで、どのような状態になっているのかは理解した。
「……で、なぜ私に電話したのかな?」
「未来のお父さんから、『戦闘がメインではない場合に何か頼むときはアトムに任せておけばいい』と言っていました。未来のアトムさんの前で」
「その時の私はどのような状態だったのかな?」
「爆薬で出来たティラノサウルスみたいになってましたよ」
「どんな例えだ……」
恐ろしいことになっているのは間違いないが、その状況を目にしたうえでアトムに頼る椿も椿である。いったい、椿の心臓はどうなっているのだろうか。
「お父さんとアトムさんの場合はいつものことですからね」
「……」
今は高校二年生と二十歳の大学生(アトムは魔法次官と大学生を兼任している)という状態。言い換えればどちらも『若い』のだ。
若い年代は一年の差が大きいものだが、大人の世界になれば三歳の違いなど大したものではない。
きっと、今よりも遠慮のない関係になっていることだろう。
そして、秀星の機嫌をうかがう必要はなくとも、無視ができないというのはストレスがたまるものだろう。
そんな怒鳴るような関係になっているということなのだろうか。
(いや、単なる椿の過剰表現か)
深く気にするようなものでもないだろう。椿は基本適当だし。
「それで、どうすればいいですかね?」
「……はぁ、私の執務室に来るといい。レポートの作成を手伝おう」
「おおっ!ありがとうございます!」
「ああ。今は少し時間が作れるからね」
ほぼ年度末なのに大丈夫なのだろうか。
……いや、大丈夫なわけがないのだが。
「すぐに行きますね!」
「いや、迎えを出そう。ホテルの名前を教えてくれ。(道中で何が起こるか分かったものではないし……)」
ここで誰かに押し付けることは可能だろう。
だが、このままだと何かあるたびにアトムに電話がかかってくる。
それはそれで面倒なのだ。アトムとしても。




