第九百六十五話
聡子は嘘はつかない。
うまく騙して抱き着いてナデナデするといっているが、要するに、それでも魔力が増える手段があるというのなら、それでも嘘にはならないのだ。詭弁だが。
そして実際にそのような手段があるのかどうかという話だが……
(ないのなら作ってしまえばいいのですよグヘヘヘヘ!)
……だそうだ。ちょっと禁断症状が出ているので精神病院に行くことをお勧めするが、まあ、不治の病なので放置することにしよう。後のことは知らん。
「いいですか?椿ちゃん。ぎゅー!っと抱きしめるんですよ!ぎゅー!っとです」
「ぎゅうううううううう!」
「あああああかわいいいいいいい!」
「……(汗)」
近くのホテルの一室を借りて、シャワーで汗を流して(椿と聡子は一緒に入りました)、替えの服や着物に着替えて、そのままベッドイン!
ハグっているときに魔力量の生成機能を刺激する魔法を使って、そのままぎゅうううううううう!とやっているのだ。
椿が少し焦るくらい聡子がドエライことになっている。
「グヘヘヘ。ムフフフ。椿ちゃん。私のいろんなところを触っていいんですよ?胸とかお尻とか太ももとか、ドンドン撫でまわしてくださいね!」
「……(怯え)」
ちょっとヤバいものに触れているのではないかという自覚が椿の中に芽生えてきた。
「ムフフ、このままあんなことやこんなことをすれば……」
「この人はヤバいですううう~~~っ!」
確信に至った椿。
「ヤバいとはなんですか!私はちょっとひどいことをしたいと思っている程度の普通のお母さんですよ!」
突っ込みどころが多すぎて処理しきれないから段取りよくボケてほしい。
「むっ!うぶっ!」
聡子は椿の唇に自分の唇を重ねる。
そのままぶちゅうううっと吸い始めた。
「むううううう!うううううう!」
逃げ出そうとする椿だが、もともと筋力が強いほうではない。
普段からはしゃいでいるゆえにスタミナはあるほうだが、筋力は刀を振れる程度にはあるが基本見た目通りである。
ギャグ補正的なものを椿は持っているだろうが……今の聡子を相手にギャグ補正で上位に立つことは不可能だろう。いや、これがギャグなのかどうかは椿の沽券にかかわるので議論を拒否させてもらうが。
「ぐふふ……!」
何かに気が付いた聡子。
唇を椿から離して、窓のほうを見る。
そこには……
「フシュウウウウウウウウウ!フシュウウウウウウウウウ!コオオオオオォォォォォ!」
人間がしてはいけない呼吸音を響かせる現代の風香がいた。
「椿ちゃん!見て!あれのほうが人間じゃないですよ!」
いったい何を擦り付けようとしているのだろうか。すでに手遅れに決まっているのだから逃げたほうがいいと思うよ?
窓にはカギがかかっているのだが、風香の実力があれば、窓の外側から魔法で空気を動かしてかぎを開ける程度のことは造作もない。
ガチャっと開けて、中に入ってくる。
「あ、これはまずいですね」
即座に椿から離れて逃げ出す聡子。
「待てええええ!この女狐ええええ!」
目を血走らせながら追いかける風香。
二人とも部屋から飛び出して、廊下に消えていった。
「……」
嵐のように過ぎ去った二人を見て呆然とする椿。
「フフフ。昔の私は忙しないわねぇ……」
「む?あっ!未来のお母さん!」
窓から未来風香が微笑みながら入ってくる。
やっと安心できる母親を発見したようで(じゃあさっきの二人を何だと思っているのかという疑問はあるが)、笑顔で抱き着いていく。
椿成分を補充しつつ、椿が一番気持ちよく安心する力加減で頭をなでる風香。
……こればかりは、今まで育ててきた未来の風香の練度の問題だろう。えへへっと椿もかなりうれしそうである。
「さっきの二人は怖かったでしょ~。ほれほれ、よーしよーし♪」
「むふふ♪む~♪」
いや、椿を洗脳しようとしているのは未来の風香も同じか。
(フフフ、椿を起点として理性を緩ませる魔法をかけておいてよかったわ。椿の心は私のものよ!)
……一連の流れの元凶はアンタかい。
未来の秀星がすごく苦労していそうだが……まあ、きっと大丈夫ではないのだろう。芯の強い嫁を持った宿命のようなものなので、秀星には頑張ってもらうしかない。
きっと高志ならわかってくれるさ。うん。




