第九百六十三話
椿は強い。
秀星と風香という両親がいて、セフィアからも教育を受けているため、臨機応変を戦闘コンセプトとする神風刃に必要な『基礎』が叩き込まれているのだ。
使う刀も業物であり、それを手入れする方法もしっかり教えられているし、実践している。
加えて、狂っているほどコミュニケーション能力……いや、コミュ力というよりは『突撃力』といった方がいいだろうか。それが高い上に他者にストレスを与えることが少ないため(反発されないのではなく、場の空気を椿色に染めるというものである)、いろいろな輪に入っていくことができて様々な人間の意見を聞く機会がある。
で、基本的にまじめな性格だ。
確かに、強くなるだろう。
が、聡子はも~~~っと強いのである。
聡子は一応学生なのだが、教室の中にいても着物である。
それでいいのかというツッコミはあるのだが、試しに制服を着させてみると、すごく『プニプニしていて気持ちよさそうな体』が薄い生地の制服によってありありと分かってしまって、『今すぐにでも抱き着きたい衝動』に駆られるため授業が進まない。
教師陣が『これはアカン……』となったので、普段着っぽい着物を着てもらうことになっているのだ。
聡子が着物ではないのは体育の授業の時くらいである。
そんな聡子の基本的な戦闘手段は、扇子を付与術で強化して武器として使う。
基本的にこれだけである。
が……めちゃくちゃ強い。
「聡子お母さん。めっちゃ強いです!」
鋼鉄で出来た人形を扇子で叩いて粉砕する聡子。
付与術の存在があるので、固くない物質で固い物質を叩いて削る光景は珍しいというわけではないが、そもそも近接武器として持ってくるのなら固い素材で出来た物を持ってくるし、削るならともかく粉砕となるとめったに見られるものではない。秀星の傍にいると感覚が狂いそうだが。
「フフフ。私はみんなのお母さんですからね~」
母は強し。というので構わないのだが、だからと言って扇子で鋼鉄を粉砕するということではない。
椿はそういうことは考えないけどね。
「むう。このあたりに来ると、神風刃が通用しずらいですね」
椿が刀を鞘に納めながらつぶやく。
鋼鉄の人形だったから風属性が通用しないというわけではなく、純粋に、通用しないレベルになってきているということだ。
「このあたりはすでに、この時代では最前線のちょっと手前といえる場所ですからね」
地球に存在するダンジョンの多くは、確かにダンジョンマスターを倒せばクリアとなる。
が、ダンジョンを『資源』と考える者が多いため、基本的に『管理できない位置にあるダンジョン』のみが攻略されているのだ。
ただ、一部のダンジョンはものすごく深い階層まで存在する。
「最前線の手前までは戦えるということですね!」
むっふー!と胸を張る椿。
「ただ、ここから先は私も一緒に戦わないといけませんね」
「むう。ここが課題ですか……」
「ただ、『儀典』を使っていないので、それを使えばもっと上に行けますが……」
「とりあえず、『神風刃』に限定して書きたいので、『儀典』の検証はまだです!」
椿は今、自分がどこまで強いのかということを検証するためにここに来たわけではない。
あくまでも、レポート作成のためにここにきているのだ。
そのため、確かに『儀典神風刃』を使えばまだ下に行けるとしても、それはオマケである。
「まず、椿ちゃんは何が足りないと思いましたか?」
「火力ですね!」
「……」
聡子は一瞬、言葉を失った。
が、家族を考えてみれば脳みそが筋肉で出来ているやつばっかりだったことを思い出して(失礼)、どのように誘導したものかと考える。
「ふむ、なるほど、では、魔力量を多くする方法と、神風刃の出力を上げる方法を考えましょうか」
「はい!」
別に聡子が脳筋ではないというわけでもないのだが。
というわけで、聡子によるレクチャーが始まる。
……不安だ。




