第九百六十二話
椿がアトムに『過去留学レポートを書かなければいけないんですけど、アドバイスを貰えますか?』と電話すると、アトムは時間を作ってくれることになった。
多忙なはずだが、アトムはもともと多いデスクワークの中で時間を作って、様々な会議に出席している。別に時間を作るくらいのことは造作もないのだ。まあ、だからといって無理強いをされても困るのだが。
別にテレビ電話でいいので、椿が文書データをアトムに送る。
普段から速読ばかりしているアトムは二千字程度なら十秒もいらないし、『口調』が入って内容がちょっと薄くなっている(別の意味で濃いけど)レポートを読むのに苦労することはない。
……いや、頭痛が痛くなったような顔をしているので、何も思わないわけではない様だが。
ちなみに、秀星と風香はそれぞれやることがある。
秀星自身、実用書の執筆を行う必要があり、風香は未来の風香からいろいろ教わることがあるのでそれ関係で席を外しているのだ。
アトムに押し付ける気満々ということで、アトムもそれを察してはいたが、あえてそれに対して追求する気はない。時間の無駄だ。
……この時代のアトムはまだ二十歳である。いいお兄さんという印象を与えておきたいのだろう。それに、普段相手にするのが自分よりも年上なので、おバカさんな椿を見るのは個人的に優先順位が高いのかもしれない。
「……なるほど、神風刃の課題か」
ちなみに、あまりにも椿感があふれる文章だったが、そこに対してアトムは訂正を求めるつもりはない。
椿がこの時間に来たときに預かった手紙から、このような過去留学レポートを未来のアトムが必要としていなかったことはわかっているからだ。
誰かとの約束によって作成しているものであるということはわかる。
……ちなみに、人間というものは作成した文章を提出する相手によっても文章を変えているものだが、椿の文を見て、すでに提出先は未来の聡子であろうことはなんとなく予想している。
「はい!いろいろ考えてるんですけど、ちょっとどういうことを書いたらいいのかなって」
「まず聞きたい」
「む?」
「椿は神風刃を使っていて、何か不便だと思ったことはないのか?」
「ありませんね」
「……」
アトムは『じゃあなんで課題と称してレポートを作成するんだ……』と思ったが、まあ、セフィアがそんなことを言ったからそれにしようとしただけに過ぎないのだろう。
椿は心に芯はあるが柔軟性がかなり高いタイプだし、何か案があればそれがそのまま通るのだ。一手先すら考えないそのポジティブは見習わなければならないかもしれない。実行しようとは思わないけど。
「とりあえず、使っていて『どうすればいいんだ』って思ったところを出して見るところからだな。今からでもダンジョンに潜って、行けるところまで行ってみるといい。だが、どこかで神風刃が通用しないタイミングが出てくるだろう。それが『課題』だ」
「おお!よくわかりました!」
「……」
レポートというものを……いや、書類というものを書いたことがないかのような言い分だが、ここでそれを追求することに意味はない。セフィアの様子を見ていると、状況にもよるが、秀星よりも椿のほうが優先順位が上っぽいので、書類などはセフィアが作るだろう。椿が考えなければならないことは一応聞くことはあっても、基本的にセフィアが書いているはずだ。
まあ、どれほど頭の中で養護しようと考えても、文句の一つや二つ。言いたくなることは否定しないが。
「今からダンジョンに行ってきます!」
「ああ。それから、どうせならこの時間の聡子と行ってくるといい。3日ほど前に彼女のスケジュールを確認したが、今日は空いているはずだ」
「ええっ!?そんなことして大丈夫なんですか?」
未来でのレポートの提出先の人物である。
流石に接触して大丈夫なのかと考えるようだ。
「構わないだろう。未来の聡子も、過去の自分がどのようなことを考えていたのかということを知りたいはずだ。優しく教えてくれるだろう」
「むうう……そうですね。では、ちょっと天窓学園に行ってきます!」
「いや、彼女のことだ。時間が空いているときは君のことを観察しているだろうから、大声で呼んで見れば来るだろう」
「ふむふむ、わかりました!」
「……」
それで納得していいのか?と思うアトムだが、もともとプライバシーとか気にする子じゃなかった。
「それじゃあ、私はこれから会議があるからね」
「わかりました。ありがとうございます!」
通話終了。
「むっ!……聡子お母さあああん!」
「はああい♪」
すごくいい笑顔で窓から顔を出す聡子。
……どこから突っ込めばいいのだろうか。これ。




