第九百六十話
早々だが、致命的な問題が一つ見つかった。
そもそもの話だ。そもそもの話である。
……椿が『しっかりした作法やマナーを守ったレポートを書けると思いますか?』と質問されたとして、首を縦に振る人間がどれほどいるのか。という話である。
もちろん、秀星や風香がいて、セフィアもいる。
椿が頼みに行けば、アトムも時間を作ってくれるだろう(多分)。
だが、それでも書くのは椿なのだ。決して他の誰かではない。
一応提出先は聡子なので多少雑でも許してくれると思うが、限度はあるだろう。
「椿ちゃんのノートを見たけど……字は綺麗なんだけど、すごく、椿ちゃんが書いたっていうオーラが見えるね」
「そうだなぁ……」
椿は『ダンジョンに行って使ってくるですううう~~~っ!』と言って、刀を手に家を飛び出していった。
目は『><』になっていてめちゃくちゃ笑顔だったので、おそらく無双モードが展開されるだろう。
それは良いのだが、大丈夫な感じがしない。
神風刃を使うことで何かわかることがあると考えているようだ。
結局何もわからずに帰ってくると思うのでそれはそれとしよう。
ただ、非常に『レポートを書く』ということに関して、大丈夫かと思う部分があるのだ。
「……椿って、口調と書く文章が同じなんだな」
「非常に珍しいっていうか素直っていうか……これってこのままレポートかいて大丈夫なのかな」
椿の口調。
ですますが入ったり、『!』が多かったり、本音となる短い文句が多かったり……とにかく、『話し言葉が全開』なのである。
椿らしいと言えばそれまでだが、レポートってそんな感じでもいいのだろうか。あまり良い感じがしないのだが、聡子が相手なら許してくれる可能性はある。
「……まあ、論文を出すわけでもないし、別に難しく考えなくてもいいんじゃないかな」
「……作法やマナーよりも内容ってことか。椿が書くんだし、結果的にはそうなるだろうな」
椿が未来で文章を書いて提出するときにどのような文になっているのかわからないが、ずっとこんな感じで書いているだろう。
制度上必要というわけでもなく、単なる聡子との約束でしかないし、気にしすぎても負けだ。
「でも俺、こんな文章書けないぞ……とりあえず使えそうな資料だけ持ってくるか」
いろいろと実用書を書いている秀星だが、テーマによっては旋風刃が頭にチラつくことはある。
旋風刃との関連性がある本くらいは出しているのだ。
どうせ引用は必要になるだろうから、それらの本を持ってくるのは必要だろう。
「あとは椿が文章を書くってことができるのかってことだな」
「そうだね。テストで点を取れるようなノートは作れてるけど、椿ちゃんって作文とか小論文はすごく弱いよ」
「……そうだっけ」
「毎回けっこう減点されてる。それがかかわらない問題は結構点を取れてるけど、文章を書くってことに慣れてないんじゃないかな」
まあ、中学三年生などそんなものだろう。
「出す相手が聡子だ。椿がめっちゃ笑顔で提出したら多少は大丈夫だろ」
「そうだね」
とっても面倒だが、こればかりはやらないとどうしようもない。
半年以上時間があったし、六千文字だがクオリティは低くともそこまで問題になるわけではないのだから、コツコツやっていれば問題はないと思われる。
「でも、椿ちゃんって課題の提出を忘れたことはないし、期間があいてもちゃんと覚えてるんだよね。なんでこれだけは忘れてたんだろう」
「……確かに、そこも疑問の一つではあるが……」
素直で真面目でおバカさんなのが椿である。
ただ、必要なことはちゃんとやるタイプなのだ。
椿だって人間だし、おバカキャラなので忘れることはまああるのだが、忘れないカテゴリというものがある。
母親が好きな椿にとって、聡子との約束は頭に残るはず。
その椿が忘れていたというのは、一体どういうことなのだろうか。
「……まあ、関係ないことを考えても仕方ないか」
「そうだね。まずは仕上げないと」
椿ちゃん一人で六千文字のレポート。
まあ無理だと思うので、両親としては頑張るしかない。




