第九百五十七話
「シャリア君!どっちがあの旗まで速く走れるか。かけっこですよ!」
「はーい!」
「では、よーい。ドン!」
「わーい!」
「めちゃくちゃ早いですううう~~~っ!」
……はい、というわけで、アルエストの弟であるシャリア君(五歳)と椿を会わせてみました。
びっくりするほど精神年齢があんまり変わらないですね。
「……なあ、アルエスト。お前の遺伝子弱くね?」
「お父様に言ってくれ」
そしてそれを傍で見守る秀星とアルエスト。
秀星のこの感想だが、シャリア君。なんと茶髪碧眼という点ではアルエストと変わらないのだが、顔がびっくりするほど『美少女』なのである。いや、五歳なので『童女』や『幼女』といったところか。
まあ、この年代の男の子は顔立ちによっては女の子みたいに可愛いこともあり得るのだろう。
ただ、シャリア君はふわふわした茶髪を腰まで伸ばしており、笑顔がとっても可愛らしい上に、服装までそれを意識しているのだ。
「……あんな格好してたら、周りに何言われても文句言えないぞ」
「いや、公的な場所ではもっとしっかりした格好にするさ。ただ……こういう私的な場所だと、乳母には勝てん」
「……小さいころからの恥ずかしい秘密。全部知ってるもんな」
「その通りだ。しかもそれを忘れないようにけっこう抉ってくる」
「……いい人なんだな」
「悪い人ではない」
どうやら良い女性が付いているようだ。
アルエストは苦虫を嚙み潰したような顔になってるけど。
「けっこうその人、乳母の時期が長いのか?」
「ああ。お父様のころから続けている。ただ、そのころの写真もあるのだが、見た目が全然変わらずに若々しいままなんだよなぁ」
「そうか……」
まあ、年齢で外見が変わらないくらいなら秀星が持つ神器であるエリクサーブラッドでもあり得るのだが……アルエストの反応を見る限りは素だろう。不思議である。
「しかし、弟がいるとはいっても、あんな感じの弟だったとは……」
「かわいいだろ」
「まあ、そうだな」
アルエストの口ぶりからすると、おそらく彼の家族は、五年前までは両親だけだったのだろう。
そこに、あんなあかわいい弟が生まれれば、そりゃ大きく影響もされる。
「ただ、まだ五歳なのに魔法使いとしての才能はかなりあるぞ」
「ああ。全速力で走ってるけど、神経や筋肉を微弱な電気で制御してるからな。五歳の頃からあんなことができるとは……」
あまりにも微弱なレベルの話だ。
あの年で神経細胞について理解しているはずもないし、おそらく感覚的にわかっているのだろう。
それを発見するだけでもすごいが、実際にそれをできるというのもすごい。
椿が全力で(魔法抜き)追いかけているが、シャリア君に追いつけない。
まあ、椿は相手にかなり合わせて接するため、身体能力に関してはシャリアに合わせることがまだできていないだけだろう。
それにしたって才能にあふれている。
(ただ……男の娘で雷属性っていうのが、すごく引っかかるんだよなぁ)
秀星は去年の夏に訪れた国を思い出す。
「……シャリアっていつもあんな感じなのか?」
「ああ。ちなみにお菓子をもらうと更に喜ぶ」
「そうか……」
椿も似たようなものだろうな。と思いながら秀星は納得した。
二人とも、目が『><』になっている。
精神年齢の低いキャラがはしゃいでいるときはだいたいこんな感じになるだろう。という雰囲気にあふれている。
「シャリア君!次はあれですよ!」
椿が指差したのは室内用のロッククライミングの遊具だった。
「おー!」
走っていってスルスルと登っていくシャリア君。
「!?……待ってくださーい!」
椿も慌ててそれを追う。
ただ、ルートを確認して登っている椿に対して、シャリア君は使い慣れているのか。迷うことなく登っていった。
そして一番上までたどり着いてドヤ顔になる。
「……五歳にしてはなかなかやるな」
「ちょっと言葉を覚えるのが遅いというのがなぁ……」
「いや。まあ、何も言わなくてもだいたい通じてるっぽいけどな。それに、話せないわけじゃないだろ?」
「ああ。ただ、喋っているときよりも動いているときのほうが多いからな……」
……まあ、元気なのはいいことだ。
「ちなみに店に入ったりすると静かになるぞ」
「乳母さんの躾がエグいな」
「ああ。逃げるように走り去っていくからな」
「怖いんかい」
まあ、まだ五歳だし、古代貴族は現役時代が長そうだから別にいいけどね。子供はしっかり遊ぶべきさ。
「むうう!シャリア君のことを少し甘く見ていたようですね。ここからは私も手加減しませんよ!」
((手加減はしてあげてね。その子、まだ五歳だから))
内心で突っ込む二人。
「椿お姉ちゃんってパンツ何色ー?」
「白ですよ」
「そうなんだー。僕しましまー!」
そういってズボンをおろそうとするシャリア君!
「シャリア君!脱衣所とお風呂場以外で脱いじゃだめですよ!」
慌てて止める椿。
「えー……でも、兄ちゃんはお風呂上がりにリビングで腰にバスタオル巻いたまま新聞読んでるよー」
「おっさんですね!」
「やかましい!」
「……フッ」
秀星はコントを尻目に鼻で笑った。
……ウェストリア家は平和である。




