第九百五十五話
アルエストからすれば、秀星がきちんと戦っているのを見たのは、ノアスフィアに転移したころだけだ。ゴブリンの大軍が移動していて、それを殲滅するためにマシニクルを連射していたくらいである。
拳銃を片手に百発百中で一撃必殺をまき散らす秀星の命中精度とマシニクルの性能は想像を超えるものではあり、とんでもないやつが味方になったと思ったものだ。
この船の防衛システムに対抗するために使っていたのもこのマシニクルであり、職業としては『銃使い』だと予測していたものもいるくらいである。
まあ、それはネットに出回っている秀星の情報を集めていると否定されていったが、いずれにせよ、高い戦闘力があることは最初からわかっている。
秀星の実力を考えれば、彼が戦上に立った時点で、そこはもう『戦い』にはならない。
ただただ一方的に秀星が遊ぶために存在する遊技場にしかならない。
それを前提とした話ではあるが、アルエストはとある結論を出した。
『秀星からすれば、殴りやすいサンドバッグを押し付けたようなものだ』と。
「ひゅー!自分に弱体化魔法をかけてはいるが、殴りやすいっていうのは良いねぇ!」
剣も銃も魔法も使わず、意思がなく、ただただ命令に従って襲い掛かってくる魔導兵士たちを殴り壊していく秀星。
大暴れする。ということに関していえばとても分かりやすい『殴る』『蹴る』という戦闘手段。
ステゴロともいわれるのだが、確かに大暴れするとなればこちらもいいだろう。
もとより秀星が好きなのは無双ゲームということもあって、『単騎で強力な力を使って、数十、数百を超える敵をなぎ倒す』ということに快感があるのだ。
まあ、無双される方はたまったものではないが。
「どんどんこいやオラアアア!」
殴って、蹴って、投げ飛ばし、振り回し、手刀を叩き込み、手当たり次第に破壊していく秀星。
当然だが、人間に殴られた程度でどうにかなるような軟な作りにはなっていない。
コンピュータではなく完全魔法制御で『精密機械ではない』ため、乱暴に扱っても問題がないように設計されている……はずなのだが、秀星に接触するたびに次々にバラバラになっていく。
ゴールドール家の人の顔は真っ青だ。
秀星は独自の裏ルートを使って彼らに素材や資料、機材を流したが、もちろん無料ではない。きっちりと代金を取っている(彼らが使う通貨と日本円の価値はセフィアが計算して算出した)。
加えて、とある条件を付けた上で裏ルートを作っている。大きなものは二つ。
①:公的な予算ではなく、あくまでも私的な財産に基づいた支払いを求めたこと。
②:ウェストリア家の派閥にかかわるものを完全に回避したものにすること。
どうせ秀星がぶっ壊すために流しているのだ。
もちろん、資料や機材、魔導兵士を作成した経験を他に活かすことはできるだろうが、それでも最初は秀星がバラバラにするために販売したものである。
少なくとも今回に関しては単なる赤字にしかならないわけだ。
秀星に勝利して奴隷のように使えるというのであれば間違いなく黒字だが、まあ現実としてそれは不可能なわけで。
「おらああああああ!」
装甲は結構頑丈に作っている。
そのうえで、秀星は自分に弱体化の魔法をかけている。
殴った手ごたえがしっかりあって、敵さんはバラバラになる。
そして、それが止まらない。
(まあ、その気になれば、指パッチンで全部停止するわけだが……それはいいか)
完全魔法制御ということは、『適用されている魔法を無力化する魔法』を使うことで単なる鉄クズになるということである。
最初から勝ち目などないのだ。残念。
「まだまだ終わらんぞ!」
殴って兵士を破壊する秀星。
「クックック。さあ、降参するっていうのならやめてやってもいいぜ?」
「ぐっ……なっ……ま、まだだ!こいつらにはリミッターを外すことで、さらに性能を上げることができる!」
「(そういえばそんな機能もあったな……)じゃあ、こんなのはどうだ?」
そういうと、秀星は自分の体から魔力を溢れさせる。
ドオオオオオオオオオオオオオオオ!
火山の噴火。というのがそれに近いだろう。
天井が開いて青空が広がるが、そこに秀星の魔力が大量にあふれ続ける。
「……」
ゴールドール家の人は口をポカンと開けた。
それはそうだろう。
彼らは一応、魔法使いなのだ。
新しい概念を取り入れない彼らはいたちごっこを繰り返す成長戦略であり、言い換えればほぼ拮抗しているため、魔力量は勝敗にそのまま直結する。
その魔力が、たった一人の人間から溢れているのだ。
この宇宙船に乗っている人間全ての魔力を合わせても足りないほど、大量に、膨大に。
……このまま世界を一つ作ってしまうのではないかと思うほど、幻想的に、神々しく。
「さあ。誰を敵に回したのかわかったかな?」
火山の根本で、秀星は笑う。
その笑顔を見て、観客席にいる全員が、もう、わかってしまった。
ゴールドール家の人は、もう、その目に嘲りも怒りも……誇りもなかった。
近くにいた人間の耳に何かを言う。
すると、言われた人間はすぐに通信機を取り出して、どこかに連絡した。
すぐに、白旗が上げられる。
「おや?」
秀星は魔力噴火を止めた。
「……私の負けだ。朝森秀星……私はもう、お前を狙わない。お前を敵に回すこともない。こんな、惨めな思いはもう、こりごりだ」
「……あっそ」
闇雲で根拠のない自己肯定感。
それを確認できるのなら観察価値はあると思っていたが、さすがにやりすぎたらしい。




