第九百五十三話
秀星が応接室を出ておよそ半日といったところだろう。
八大貴族の一角、ゴールドール家は、とある『新兵器』を開発したようだ。
研究過程が多い『新兵器』の開発会議がかなり速く進み(セフィアに頼んで書類にメモを書き加えてもらった)。
宇宙船の外に出て素材を集めて(秀星が裏ルートを作って流した)。
閉鎖環境故に資金捻出が苦しかったが、外部からふとまとまった金が湧いてきて(秀星が換金しやすい数々のアイテムを入手させやすくした)。
開発機材を速攻で用意し(秀星が先に機材を用意して裏ルートに用意しておいた)。
強運と運命に味方されたような圧倒的な速度で、宇宙船が所持していたそれまでの兵器の性能を大幅に上回る兵器が誕生したのだ!
ア゛ッー!マッチポンプってだるい!
いやまあ、秀星はセフィアに『正体を悟られないようにして新兵器開発を手伝ってやれ』と命令しただけなのだが、人間というものは腰が重いもので、それが保守的な人間ともなれば背中を押す……いや、いっそ蹴りまわすくらいのことをしないといけないのだ。
だるいといったが、その大部分は『新兵器完成を待つ』ということがどうにも肌に合わないのである。
そもそも、秀星は新兵器の開発などやらない。
神器のコアを開発した創造神ゼツヤが、一から設計した神器を十個も持っているのだ。
新しい兵器など作らず、この十個の神器を軸にして戦術を開発する方が手っ取り早いのである。
新兵器は作らないが、『道具』程度の物は作る。
しかし、開発、設計、製造に加えてテストプレイまでやって『完成』させることを全部ひとりで出来てしまうので、他人の同意を必要としないのだ。
「朝森秀星。貴様に決闘を申し込む!」
「よしきた!」
……ゴールドール家当主の男はポカンと口を開けた。
気持ちはわかるがさっさと話を進めてくれ。
「な、舐めおって。我々が勝てば、先ほどの書類の条件をすべてのんでもらうぞ」
「いいよいいよ。さっさとやろうぜ!」
秀星から求めるものは何一つない。
そもそも散々いろいろ渡した後だ。別に回収したいものがあるわけでもない。
ただ、ここまでノリノリなのはなぜなのだろうか。
というわけで、ゴールドール家の人は契約書を持ってきた。
秀星は内容を確認してそれにサインを入れると、ゴールドール家の人は帰っていった。
一度の交渉でこちらが首を縦に振るとは思っていなかったのかもしれない。
秀星にとってはどうでもいいことだ。
「秀星。楽しそうだな」
「散々援助してやったんだ。あれほど闇雲に根拠のない自己肯定感を持つ人間なんてそうそういないし、楽しみだよ」
何度も何度も止まるのだ。
そりゃ研究なのだから時間がかかるのは当然のことだが、待ってる方はダルイのである。
「どんな兵器を作ったんだろうな……」
「ゴールドール家当主『個人』との決闘だからな。個人で扱える程度のマシンを作ったってことさ」
「ほう……私でも勝てるかな」
「勝てるに決まってるだろ」
「……」
「……」
「……まあ、深く突っ込むのはやめておこうか」
「あんまり強い物を作っても使いこなせずにこっちがイライラするだけだからな。シンプルな方がいいんだよ」
「そういうことにしておこう」
アルエストは息を吐いた。
「そういえば、あの人。普段どんな鍛錬してるんだ?身長162センチで体重170キロくらいありそうだったけど」
「一応、魔法使いだ」
「……でも、あの様子だと現場に到着するまでに相当時間がかかるぞ」
日本の自衛隊にも魔法職を動員する方針になっているが、当然、『魔法使いで体力がないから……』などといった理由は通用しない。
様々な国が魔法使いを軍に導入しているが、行軍が遅れると上官に蹴られます。
「基本的には指示を出すだけだからな」
「『余計なことをしない才能』がない人が防衛省のトップか」
「貴族性は大体そんなものだ」
「だよね」
別に貴族だからと言って秀星は偏見を持つことはない。
だってどうでもいいから。
貴族という地位を『活用』して、労力を注いで発展させることができるのならそれはそれでいい。
ただ、貴族という地位を『悪用』して、大した労力を払わずに私腹を肥やすのならそれは問題だ。
「もうちょっと物を考えることができればいいんだけどなぁ」
「今まで続いてきたことだ。今更正しいことが何なのかなど考えないだろう」
「まあ、別に、正しいことをしろと押し付けるのもアレだがな」
「そうか?」
「『正しいこと』っていうのは誰もやらないのはひどい話だが、全員がやるともっとひどいことになるからな」
「そうか?」
「節約っていいことだろ?」
「ああ……あ、なるほど、全国民が節約したら、経済が発展せず、豊かにならないということか」
「そんな感じ。合成の誤謬っていうんだ。覚えておいて損はないぞ」
「覚えておこう」
アルエストは頷いた。
「それで、どう落とし前をつけるつもりなんだ?正直結果がまだ見えていないんだが」
「俺は遊びに来ただけだ。とだけ言っておくよ」
「……好きにしろ」
大きく息を吐くアルエスト。
どうやら彼は何となく、秀星の飼い方がわかってきたようだ。




