第九百五十二話
「こんなふうに怒鳴りつけることもできるんだな」
アルエストが用意したゲストルームで待機している秀星。
そこにアルエストがやってきて、爛々と輝いている表情の秀星がSDカードを手に待っていたわけだ。
その動画を見てアルエストは微笑む。
「まあな。だってあの人たち全然怖くねえんだもん。思わず張り切っちゃった」
「君が怒鳴り散らす前の部分も見て思うが、慣れているのか?」
「あー……俺が持ってる資産とか利権ってすごいからな。実は『いろんな人』が来るんだよ。中にはゴツイ顔面の人も来るわけだ」
「なるほど」
「別に、顔面の圧が凄くても、理性的な話ができるのなら何でもいいんだよ。でもね。肉声言語が通じない相手って一定数いるんだ」
「世界一位の男を相手に恫喝を武器にするのか?」
「うーん……なんて言えばいいかな……特権意識っていうのかね。これがあると人間って、『恐怖しない』んだよ」
「ああ。なるほど」
自分は大丈夫。自分は守られる。
特権意識というのはそういうものだ。
人間という存在はそう強いものではない。
だからこそ、『権利』の本質は、『何ができるか』というよりも、『それをしていいと保証される』ことが重要なのだ。
特権階級は『守られている』ため、『恐怖しない』のである。
「なるほど、特権階級というものは『恐怖しない』か。それは初めて聞いたな」
「何をしても咎められないのが何故なのかって話にもなるけど、まあとにかくそういうことだ。そういう勘違いをした連中……の子供かな?そのあたりがよく来るんだよ。とっくに俺の家の住所は知れ渡ってるし」
「なるほど。で、その場合は秀星も怒鳴ることはあるわけか」
「まあ、どれだけ利権があっても俺は子供だし、『子供の喧嘩』なら手加減はするけどな。派手な失敗を一度したからと言って捨てるようなものでもないし」
秀星は全てを許せるほど大人ではないが、簡単に人との関係を切れるほど子供でもない。
「ただ、親が出てくるのではないか?」
「その場合は『親には』手加減しないよ」
「覚えておこう」
子供の喧嘩は子供同士でやるから子供の喧嘩なのだ。
まあ、大人がよってたかって子供みたいな喧嘩をすることはあるだろうし、それは状況によるので秀星だって考慮する。気が知れた相手がいて、大人になったことで出来る喧嘩だってあるわけだ。別に秀星は厳格じゃないし。
「まあ、秀星の主張は分かった。で、これからどうなると思う?」
「喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうし、多分来るでしょ。それに、ゴールドール家は筆頭であって、彼らと同じようなことを考えている家はまだある。そこからいろいろ言われて勝手に議論するさ」
「そうして挑んできたところで返り討ちにすると?」
「その通りだ。あと、ちょっと裏ルートを使って暗躍してます」
「ん?」
「この国の軍事関係の部署に、彼らが使えるように選別された新技術のデータを多数送り付けておきました」
「はっ?」
「なので、大砲の弾幕パーティーで遊んだ時よりも、今この宇宙船の設備は強くなってます」
「知らなかった……」
「完成してないしな。横のつながりが薄いウェストリア家には情報が来ないだろ。で、そうして強化したら、彼らの『自信』はどうなると思う?」
「まあ……強くなるだろうな。なるほど、だから武力で訴えてくるだろうということだな」
アルエストが理解したのを見て秀星は黒い笑みを浮かべる。
「そういうわけだ。だから早く来ないかなーって思ってます」
ウキウキしている秀星。
「そこまで戦いを望むか」
「だって、地球の皆さんって俺の実力がわかってるからな。俺に勝負なんてしかけてこないもん」
「調子に乗ってるご子息が来ると言っていたが?」
「最終的には親が出てきて子供を張り倒すからな」
「それはそれで凄い光景だな」
「凄い光景だったぞ」
青い顔をした親が飛んできて張り倒して首根っこを掴んで部屋から出て行くのが、数秒後には親が戻ってきて土下座で謝ってくる。
だが、この親からすれば大変困るのだ。
ユグドラシル・ストアで稼いでいるために金があり、現在政府の中で最高レベルに強い魔法省と深いつながりがあるということを考えれば地位も権力もある。
国際連合が認める『魔戦士の序列は世界一位』ということから実力を世界が保証していることと同じだ。
オマケに、結婚はしていないが、セフィアというメイドがいて女に困らないのだ。
こんな化け物を相手にどうしろっていうんだ!という感じである。
だが、化け物呼ばわりされる割に、観察力がない者が『勘違い』する場合は多い。
秀星の活動範囲を見れば、別に大企業の会長とか、昔から続いている名家の出身とか、そういう属性を持っているわけではない。
ユグドラシル・ストアで稼いでいるといったが、本質的には『珍しいモノが簡単に手に入るので売っているだけ』なのだ。
だが、完全自給自足が可能なので多額の金銭を必要とはせず、魔法省、そして将来が期待できる企業への多額の投資を行っていて影響力が高いため、魔戦士業界では発言力がかなり高い。
実用書を一冊出せばその印税はかなりのものになるほどだ。もうちょっと本の書き方を勉強しろと苦情が入ることもあるけどね。
だが、こう、どこか、『大企業の息子』みたいなものが持っている雰囲気がないのだ。
そのため『勘違い』をしてくるものがいる。
「まあ、結局は話し合いで済ませるんだけどね。だって俺は遊んでるだけだし」
「悪趣味だな」
呆れるアルエスト。
「というわけで、さっさと新兵器を開発してほしいんだよねぇ……物資でも送り付けておくか?」
「好きにしろ。私は知らん」
アルエストは隠す様子もなく大きく息を吐いた。




