第九百四十八話
「はぁ……」
放課後。風香が暴れているのをよそに、秀星とアルエストは部屋を用意して話していた。
のだが、アルエストはセフィアが用意した一口だけ飲むと、そのまま疲れていることを隠しもせずに溜息をついた。
「どういう状況なんだ?アルエスト」
「まあ、まず信用できないという主張が一番多かった。これに関しては、何らかの機会に秀星に『実演』してもらえばいいからこちらも強気に反論すればいいんだが、もう一つ、『その秀星の力を利用できないか』と考えているものが異様に多い」
「ほー……まあ、自分たちが特別だと思っているのなら、自分が何かを言えばその通りに動くと思うに決まってるよな」
「ああ。古代貴族の八大貴族は、その八大貴族以外に対して支配する権限があると思っているものが多いからな」
「悲惨だな」
「政治において長期政権はほぼ腐敗するだろう。しかも、我々は民主制ではなく貴族政だからな」
「簡単に言うと調子に乗ってるわけね」
まあ、別に珍しいことではない。
人間というものは自分の力が強くなればそれだけ言葉は強くなり、そして他者を貶すことに抵抗がなくなる。
当然、貶すようなことをしていれば嫌われるものだ。場合によっては恨まれるだろう。
だが腐敗した貴族というものは、恨まれることをしている自覚がないし、自覚があったとしても、それを『恐怖』することはない。
賄賂を貰っているとか、愛人を囲っているとか、別にそれは『政治家』個人の腐敗である。
だが、それが簡単にまかり通るような世の中になっているのは『政治』の腐敗だ。
適切な思想と能力を持つものが、適切な権力を得る。それができればどのような政治体制を取ろうと秀星は何も言わないが、現実として不可能だろう。
ただ『腐敗している』ということはまた別の見方も出てくる。
「はぁ……なんか、古代貴族以外の誰かが裏にいて操ってるんじゃないかって思うほど間抜けなことになってるな」
「裏に?」
「腐敗している政府が一般市民にとって不都合なものは確かだが、悪いことを考える者にとっては最高だからな。長期政権は腐敗するというが、皆が腐敗していると思っているものを『単なる発酵』だと理解しておいしくいただくものもいるってことだ」
「頭の痛い話だ」
「だが、珍しいことでもないさ。で、俺を利用するって言ってたけど、具体的には?」
秀星の質問に対して、アルエストは束になった紙を出した。
どうやら、秀星をどう使おうかと考えているようだ。
パラパラとめくっていく秀星。
「……要するに、俺を奴隷みたいにこき使いたいってことか」
「そういうことだ」
「具体的に何をやりたいのかってことも書かれてるな」
「ああ。どうやら、世界に対して発言権を大きくしたいらしい」
「ぶっちゃけると……『国際連合』にでも入るつもりか?」
「いや、国際連合を自分の下に置きたいようだ」
「勇気あるなぁ……」
世界には強い魔戦士がたくさんいるし、その状態でも防衛力を高めるために数多くの資金で兵器を開発している。中には、自国民の中で強い魔戦士は国軍に入隊することを義務付けることにした国家もあるくらいだ。
世界のレベルは高いのである。
あの宇宙船に近づいたときに防衛システムで弾幕パーティーになったが、あれは宇宙船が凄いだけで古代貴族が凄いというわけではない。秀星には通用しないし。
「妥協することを知らない大人か。ただ……怖くないんだよね。全然」
あの船の中だが……もうすでにセフィアに調べさせている。
古代貴族のことも、そしてその戦力も把握しているのだが、全然怖くない。
「とりあえず、秀星の実力を見せてみるか?」
「別にそれでいいよ。百聞は一見に如かずっていうからな」
そして、『百見は一撃に如かず』である。聞いても見てもわからなかったら一発ぶんなぐってみようということである。
「さて。どんなことを言って来るのか楽しみだな」
ウキウキしだした秀星。
アルエストはそれを見て、もうなるようになれ。と思うことにした。アルエストは対処主義の比率が高いしね。
そもそも、肉声言語が通じないのなら肉体言語で語るしかないのだ。
古代貴族は二万年も海底に引きこもっていただけあって、刺激が限られている。
ここはひとつ、盛大に煽らせてあげて、その上で『誰に喧嘩を売ったのか』ということをわからせるべきだ。
世の中、理不尽というものはかなり多い。




