第九百四十五話
ある意味で当然のことだが、人間は目に光が届かないとそこで何が起こっているのかを見ることはできないし、耳に空気の振動が届かなければ音を感じることはできず、衝撃を触覚で感じなければ地震だってわからない。
壁の全てを頑丈な鉄で作って音や衝撃が漏れにくいようにするという方法もあるのだが、そもそも『光』と『音』と『衝撃』が外に広がらなければ、何が起ころうともそれを感知されることはないのだ。
朝森宅は魔法によってその三要素が外に漏れず、常に決められた情報が放出されるように設計されているため、一度朝森宅が吹っ飛んだとしても、それを周りが知ることはないのだ。
「さて、私がどれくらい強くなってるのかわかったかな?」
「……まあ、大雑把に」
というわけで、未来風香と現代風香が話しているわけだ。
ちなみに椿は未来風香の膝枕でスヤスヤ寝ている。それをセフィコットはビデオカメラで撮影中だ。
セフィコットからは、『こう、もうちょっと、風香様のお二人には顔を近づけていただきたいんです。唇と唇がぶちゅううううっと触れ合うくらいに!』といった思念のようなものが二人に送られているし、何も言わないセフィコットの考えは何となくわかっている二人だがガンスルーしている。
「神祖の神器なんだけどね。この神器は『特定の時間の範囲にしか存在しない』ということを条件に渡されているものなんだよ」
「特定の時間の範囲内?」
「そう。だから、私が未来でこれを持ち続けていても、いずれ使えなくなるってこと。だから、過去の君も、私の今くらいの時期にはタイムマシンに乗って過去の私に渡しに行くことになる」
「ま、まあ……」
「難しく考える必要はないよ。詳しい事情を話さなくても、未来の秀星は裏でどういう事情があるのかわかってくれるからね」
そういいながら自分の太ももを枕にして眠る椿の頭を撫でる風香。
「むふふ~……」
気持ちよさそうにしている椿。
椿という存在を意識して、少しずつ大人になっている現代風香だが、それでもやはり、未来の風香は『大人』だ。
なんとなくそう感じる。
「さてと、私は椿ちゃんがこの時間から帰るまで一緒にいる予定だから、まずはアトム君あたりに話しておかないとね」
そういってほほ笑む未来風香。
秀星がテーブルに放置していたスマホを手に取る。
「えっと。確かパスワードは……よし、開いた」
恐ろしい妻である。
そのまま電話アイコンをタップして……。
「アトムさんはこれだね」
コール!
……一回でつながった。
『秀星、何の用かな?』
「ああ。ごめんごめん。秀星じゃなくて私なんだ」
『その声は……風香?いや……』
声の奥から伝わる雰囲気が普段と違うことに気が付いたのだろう、
第一、風香からアトムに電話を掛けることなどほとんどないのだ。
多くの話で何かを解決したいとなった場合、最強の夫が隣にいるからである。
「私は二十年後の未来からやってきた朝森風香だよ」
『……で?』
嫌そうな、というか、『業務増えそう』と思っている様子のアトムの声が聞こえてきた。
気持ちはわかる。
「このまま私がここで活動するのもアレだから、とりあえずアトム君には通しておこうと思ってね。未来のアトムさんから、君への手紙と、私のこの時代での冒険者のライセンスを貰ってるよ……あ、この時代だと冒険者じゃなくて魔戦士だったかな」
『……事情はわかった。そしてその上で聞きたいんだが』
「ん?」
『君たち。何かあれば私に押し付ければ何とかなると思っていないか?』
「フフッ」
否定はしない未来風香。
それを世間では確信犯ともいう。
『はぁ。まあいい。手紙を預かっているのなら拝見しよう。開けておくから、私の執務室に来てほしい』
「わかった。それじゃあ、椿ちゃんを連れていくね」
『……すきにするといい』
通話終了。
「さてと、それじゃあさっさと行きますか。椿ちゃん」
「ん……むぅ~?」
寝ぼけまなこで目覚める椿。
「アトムさんのところに行くよ」
「はい!」
ひょいっとおきあがってうーん!と伸びをする椿。
大きな胸を張っていて、セフィコットがビデオカメラでガン見している。
未来風香はスルーしているので、どうやらそれはいいらしい。
よく、わからぬものだ。




