第九百四十一話
「秀星君。アトムさんへの報告はどうだった?」
「細かいところをいろいろ聞かれただけだな」
「うーん……思ったより想定内だったのかな」
「行ったこともない星に関して想定内も何もないと思うが……」
「いや、それが地球にどう影響を与えるのか。ということだよ」
「なるほど」
秀星と風香は秀星の自宅で話していた。
椿はセフィコットで遊んでいる。
「地球にいる古代貴族や、ノアスフィアにあった技術に関して何らかの介入ができるかもしれないって考える奴が多いだろうしな」
「うん。完全にダンジョンに支配されて終末世界だったっていう情報だけを広めると、さすがにそれを利用しようとは思わないだろうし」
「だろうなぁ」
「それに、もともとノアスフィアに行けるのは秀星君がかかわらないと無理だしね」
「転移系統の力があれば手段としては何とかなるかもしれないが、ノアスフィアの位置を正確に把握することを考えるとまあダルいよな」
十七歳の若造に技術や知識を独占されることに対して異論や反論がある人間はいるだろう。
だが、相手は秀星だ。
魔法省が公式に認める『世界一位』の男に対して、正面からごちゃごちゃ言える人間は、権力を持っているものほどいないのである。だってみんな反撃されたくないし。
「まあ、アルエストが古代貴族の中でどれほどの発言と影響力を保てるかだな」
「可能性が高いのは……実力が測り切れない秀星君を囲もうとすることかな。だって、古代貴族って秀星君がどれくらい非常識か知らないからね」
「確かに」
どちらにせよ、秀星にとって不利益はない。
ユグドラシル・ストアの経営者である秀星を相手に良好な関係を築こうとするのならそれは構わないし、囲い込もうと圧力をかけてくるのなら、秀星の心のどこかにある『暇と退屈が嫌いな自分』をたたき起こして売られた喧嘩は喜んで買います。
まあ別に、一度喧嘩腰になった程度で徹底攻勢に出るほど秀星だって子供じゃないので、アトムと相談して加減するけどね。
「多分、アルエストが作った書類が信用できないっていうと思うけどな」
「秀星君の強さの部分かな」
「いや、そもそもノアスフィアに転移したのではなく、どこかに隠れていて脚本作成でもやってたんじゃないかって言われるだろうな。アルエストが『有意義』としてノアスフィアから持ち帰ったのは百万枚のダンジョンカードだが、似たようなものを作れと言われたら俺は作れるぞ」
「あ。そっか」
そう。『そもそも転移自体。できているはずがない』という価値観を持っている可能性がある。
最初からどんな証拠を出されたとしても信用しない可能性が高いのである。
まあ、それは頭が固くて人の話を聞かない上に、外交部であるウェストリア家に対して良い感情を抱いていない人たちが大勢いたらという仮説で構築されているのは自覚しているが。
ただ……ウェストリア家に対して一定の信用があるという前提でも、『作り話で自分の功績を主張している』という論争にはしないとしても、『ノアスフィアに転移してダンジョンを全部制圧してついでに文明が発展しやすくするために鉄道網も敷いて帰ってきました』と言われても信用できるか。という話である。
秀星くらいのレベルのやつと接していて感覚がマヒしていると大丈夫だと思うのだが、そういう人間は多くない。多くてたまるか。
「でも、アルエストさんがピンチになったら助けるんでしょ?」
「友達だからな。調子に乗ってるやつが相手なら……ねぇ?」
復讐でも報復でも何でもない。
ただ秀星が遊ぶだけである。
「秀星君が相手かぁ……喧嘩じゃ勝てないけど、口論も嫌だなぁ」
ハハハッ……と乾いた笑いになる風香。
「だろ?さーて。どうなるんだろうなぁ。喧嘩を売ってきたらいいなぁ。ちょっと暇だし」
秀星は黒い笑みを浮かべる。
笑いが止まらない様だが、仕方のないことだ。
敵が知られたくないことをセフィアを使って全て調べ上げて、敵が持っているありとあらゆる技術のはるか上を行く技術をそれぞれ用意し、嘲るような笑みを浮かべながら席に座る。
楽しいに決まっているじゃないか!




