第九百三十七話
「秀星。君はここまで強かったのか」
アルエストは呆然とするしかなかった。
長い戦いになると思っていたし、秀星にばかり任せていられないし、いずれ自分が戦い始めるものだと思っていた。
しかし、もはやそういう次元の話ですらなくなった。
「ああ。まだ全力じゃないけどな」
秀星は子機に届いてくる『ダンジョンカード』の増えていく枚数を見ながらそういった。
「秀星ならそういうと思ったが……本当に驚いたし、敵にならないでよかったと思う」
「どうせ敵になっても適当に追っ払うだけだと思うけどな……」
アルエストくらいの強さだと、秀星は本気は出さないです。面白くないから。
「……図書館だが。秀星はどう思う?」
「特に興味はないなぁ。物資を根こそぎ奪うついでにいろいろレポートにまとめさせていたんだが、どうも強くないんだよなぁ。図書館の内容がどういうものかは知らないけど。『全く知らないこと』につながるようなことはなさそうだ」
「そうか」
「百万枚のカードに直筆のサインを入れるのが面倒っていうのもあるけどな」
そう、ダンジョンカードだが、『登録』するためには直筆のサインを入れる必要がある。
ダンジョンカードそのものが『惑星魔法』で作られており、緻密どころのレベルではないため、『念筆』などで楽にするのは不可能……というわけではないのだが、惑星魔法はどこかで神の力が作用しているため、秀星自身、念筆でやろうとするとめんどくさい。
全て、自分でペンを持って、フルネームを書く必要があるのだ。
ちなみに『朝森秀星』は合計で四十画くらいある。
ただ、この秀星の説明を聞いて、アルエストが黙った。
そういえば『貴族』だ。
秀星に名乗るときは『アルエスト・ウェストリア』と名乗っていた。
『・』を入れて二十六画である。
「……一つ聞いていいか?」
「どうした?秀星」
「アルエストのフルネームって何文字ある?」
「二十文字だ」
地獄。
「しかも、単なるカタカナじゃなくて、『正式表記』だとすごく面倒な文字がかなりに頻度で存在する」
ミドルネームに組み込まれているところを考えると、古代貴族にとっても特別な文字なのだろう。
古代貴族の中で外交部を担当するウェストリア家にとって重要な文字であることに変わりはない。
変わりはないのだが……。
「どれくらいめんどくさいんだ?」
「まだ『薔薇』って書く方がいいレベルだ」
絶望。
「サイン頑張ってね」
「……」
アルエストはとても……そう、とっても嫌そうな顔をした。
秀星だっていやです。
「……まあ、それに関しては時間を見つけてやるとして、秀星はこれからどうするんだ?」
「そうだなぁ……線路でも引っ張って町と町をつなげておこうか。森とか山とか、いろいろなものが取れそうなところにも簡単な拠点を作って、そこまで楽に行けるように整備することも考えられるか」
「鉄道網を構築するつもりか?」
「ああ。人の移動は多い方がいいからな。まあ、あまり都市みたいなものを作れるほど人口に余裕はないからなぁ……」
現在のノアスフィアを確認する限り、人は増えた方がいい。
言い換えれば出生率を上げた方がいい。
ただし、大型都市のようなものを作るよりは分散させる方がいい。
日本でも、東京の出生率は呆れるほど低いのだが、『東京一極集中』と称されるほど東京に人が集まる。
そりゃ少子高齢化も加速するだろう。
新幹線などの鉄道網をつくることで地域に分散させることが必要だ。アトムは作ってるみたいだけどね。
なので鉄道を作る時、秀星は遠慮しません。
「ふむ。では、管理体制はどうする?」
「セフィアに任せるさ。端末はまだあまりまくってるし」
「そ、そうか……」
都市設計というよりは『地表設計』みたいなものになるが、セフィアの『地表設計』は秀星の思想を反映したものになる。
まあ、なんとかなるさ!(雑)
「秀星自身はどうするんだ?」
「いったん地球に帰るよ。アトムに報告する必要があるしな。それに、アルエスト自身、報告することは多いんじゃないか?」
「……纏めるのキツイんだが」
「知らんな」
秀星は目をそらした。
「まあ、まずは、風香と椿のところに行ってみるかね……」
どうなっているのだろうか。全然電話がかかってこないけど。




