第九百三十五話
付いてきた少女だが、どうやらアルエストたちが向かっていた町の出身のようだ。
この世界のレベルで言えば、少女は町にとって切り札と呼んでいい存在だろう。
そんな少女と共に、秀星は町にやってきた。
その町だが、言いたいことを簡潔に言えば『騒々しい』といったところだろう。
アルエストとサレイアが指示してセフィアに置かせた大量の料理は、瞬く間に町の中で広がっていったらしい。
「こ、この町が、こんな活気にあふれて……」
「それだけ大量に食料をばらまいたからなぁ。それに……」
秀星は空を見上げる。
そこにあるのは青空であり、分厚い雲はない。
「この空だ。太陽の光を浴びることを認識することだって初めてだろうし、そりゃ舞い上がるのも無理はない。こうなるのは普通のことだ」
太陽の光があることは地球では普通のことだ。
それに対して秀星が感動することはない。
だが、そんな秀星でもわかることはある。
「秀星!」
「ん?アルエストか」
町の中に入って歩いていると、アルエストが走ってきた。
「どうやら、ダンジョンをクリアしたようだな」
「ここら一帯を支配しているダンジョンを討伐したから空が晴れたみたいだな。で、この町はどうだ?」
「食料は全員に配った。」
「ほー……まあ、具材がほぼ変わらん料理ばっかりだけど、栄養価があるからな」
「あと、薬と布団もかなり入っていたからな。それらも配っておいた」
「あー……そりゃけが人や病人もいるよな」
何もかもが足りない中、全員が我慢をして……いや、我慢ではなく『諦め』ていたのだろう。
そんな中で、栄養価のある食事と、体調を整えられる薬、ゆっくり休めるセフィア作成の布団。そして、青空があれば、ゆっくり休めるだろう。
「そ、そんなことまで……強いだけじゃなかったのか……」
「……秀星。そちらの少女は?」
「ダンジョンの中にいた腹ペコさんだ」
「誰が腹ペコさんだ!」
「だってまだ名前聞いてないもん」
そう……というか魔人もそうだったが、名前を聞く前に終わってしまった。
どうせあまり興味のない情報だったけど。
「……リブリアだ」
ぼそっと呟くように名乗る。
秀星は頷いた。
「リブリアだな」
「……ダンジョンの中にいた。か」
「ああ。この町出身らしい。とりあえず放置するのもアレだったから、ダンジョンマスターを倒した後、この町に転移で一緒に戻ってきた」
「そうか」
とりあえず確認は終わり。
だが、リブリアには知りたいことがあるようだ。
「すまないが、確認したいことがある。礼は後でするからな!」
そういってリブリアが走っていった。
「あの様子は……家族が誰かいるな」
「わかるのか?」
「まあな。あんな感じの目を、俺は見たことがある」
秀星はそういって、町の中を歩く。
建物はボロボロだ。
町と言っても、一階建ての木で作った建物が並んでいる。
中には二階建ての建物もあるのだが、その数は少ない。
日本と比べれば、町全体がスラムといったような雰囲気だ。
ぐるりと囲む壁により、まるで牢獄のような町である。
だが、活気があふれている。
腹いっぱい食べられる。病気に苦しむこともない。体をしっかり休められる布団がある。
セフィアが建物を補強・改造しているようで、雨風の影響もない。
至れり尽くせり、といったところか。おそらく、セフィアも自ら判断してそれぞれで援助しているはず。
究極メイドであるセフィアが指揮を執っているのだから、問題など起こるはずもない。
「……秀星、この町をどう思う?」
「しっかり食べて、寝ることができる。それすらできない町だったというわけだ。きっと、ここよりもひどい場所はたくさんあるだろうな」
「……どうするんだ?」
アルエストから『どうするのか』と聞かれて、秀星は少し考えた。
「……はぁ。難しいことを考えるのが嫌になってきた」
「ん?」
「アルエスト。もしもだ。俺がこの星にあるダンジョンを全て攻略するとしたら、どれくらい時間がかかるかね?」
「……二万年前のシミュレーションを元にした結果だが、秀星が単騎で強く、転移魔法を使えるとしても、百年はかかるだろう」
「どうして?」
「どれほど強かろうと、一人の人間が一日に戦える時間には限度がある。一日中戦い続けることなどできない。ダンジョンの数は圧倒的だ。中にはダンジョンそのものが水……いや、それならまだいいな。猛毒の沼やマグマで満たされているものまである。そして、それに適合した強力なモンスターが存在する」
劣悪な環境だ。
強力なモンスターだ。
「正直、そういったモンスターが相手の場合……秀星を投入するとしても、どう計算すればいいのかわからない」
「なるほど」
どれくらいかかるか。という問いに対して、結論が『計算ができない』というのは、確かに正直な回答だ。
元々、『限界がわかっている歩兵』として扱わない駒だ。
「……一日だ。一日でいい。俺に、『好き勝手に』やらせてもらえないか?」
「いいだろう。好き勝手にするといい」
「即答か。俺の扱い方がわかったのか。コントロールを諦めたのか……詳しくは聞かないでおくよ」
「ああ、助かる」
秀星は再び、空を見上げる。
……どうやら明日のノアスフィアの天気は、『局所的な兵隊の雨』後、『快晴』のようだ。




