第九百三十二話
戦闘開始から二秒。
「いやー……まさか、最上階が屋上になってしまうとは」
とても楽しそうに、魔人は笑みを浮かべる。
放たれた斬撃が二人の中心点で爆裂。
その衝撃は圧倒的で、城の最上階の玉座の間の壁と天井をまとめてぶち破った。
「人間でここまでの出力を出せるとは……」
「ま、そういう人間がいても不思議なことはないだろう」
「それもそうだ!」
秀星と魔人は突撃した。
魔人は剣を振り下ろして、秀星はプレシャスをぶつけてそれに対抗する。
膂力は互角……いや、互角のように見せようとお互いに調節しているだけだろう。
そのままお互いに弾くように離れて、連続で剣を振る。
金属音ではなく『爆発音』が響き渡る。
プレシャスが持つ属性は、切断ではなく破壊。
魔人が持つ剣も、切断ではなく爆発が本質なのだ。
単に二人は斬り合っているだけなのに、まるで空襲でも発生しているかのような爆撃音が鳴り響く。
「面白い剣を使っているな!」
「それはこっちのセ……いや、お互いのセリフか」
自分が使っている変なものを他人も使っているとは思わないものである。
「お互いに全く本気を出していないが、私のこのレベルにすら耐えられないものが多い。私はうれしいぞ。ここまで戦える相手は久しぶりだ」
「だろうな」
この魔人の力は圧倒的だ。
異世界で魔王を務めた基樹に匹敵するほどの実力。
運営力はともかくとして、戦闘力は圧倒的だろう。
この世界では、まず相手はいない。
あと、爆撃がうるさすぎて魔人の声がちょっと聞こえずらい。
「ふう……爆撃がうるさいな。ちょっと破壊設定を切ってくれないか?私は爆発設定を切るとしよう」
「だな」
大変同意である。
お互いに破壊と爆発を閉じた。
すると、今度は斬撃音が響いていく。
ただ、お互いにまだまだ本気を出していない。
「フフフッ。どんどん速度を上げていこうか。どこまで付いてこれるかな?」
魔人はそういって、剣を振る速度を上げていく。
それに応じて斬撃音の回数もまた増えていく。
……が、秀星は表情を変えずに対抗する。
「ほう……」
すこし、斬撃の速度上昇が衰えてきた。
確かに十分早い。
基樹であってもそれ相応に本気にならないと対抗できないだろう。それほどのレベルだ。
が……まあ、それだけである。
「な、なんだお前は……」
「だんだん雲行きが怪しくなってきたかな?」
魔人の計算とは合わないのだろう。
自分より強いものが絶対にいない。と考えている様子はない。
ただし、自分より強いものが自分のところに来ることは想定していないのだ。
影響力を理解していないのかもしれない。
「ククク……楽しいねぇ」
焦っている様子はない。むしろ楽しそうだ。
「……こんなジャンキーだったとは」
「何を言っている。自分よりも強いものに出会わなければ、自分の視野が広がらない。強者と戦うことを望まなければ、何も手に入らない。つまらないことを言うなよ。人間!」
強者を望む持論を語る魔人。
秀星はそれに対して、何も言わない。
……まあ、反対しない時点で認めているようなものだが。
「……まあ、否定はしないよ。ただ、口では平和を唱えたいがな」
「構わない。ダブルスタンダードのほうが人間らしい。そしてその根っこにあるのが、『自分さえよければいい』というのなら、まさにそれが『人間』だろう!」
「楽しそうだな……」
自分さえよければそれでいい。
だからこそ、どんなダブルスタンダードだろうと、自分に都合がよければいい。
なるほど、確かに人間らしい。
「お前とは口で語るのも楽しそうだが、残念ながらお前は邪魔だ。倒させてもらうぞ」
「構わん。本当に何を考えているのかは剣よりも口で語る方がいい。だが、私は剣で語る方が好きなのでね!」
これだから、戦闘狂は疲れる。
何となくそう思ったが、口には出さず、秀星は剣を振る。




