第九百三十一話
黒に金や銀で構成されたアンティークは、秀星の個人的な価値観として、かなり『呑まれる』ような魅力があると思う。
時計でイメージすればわかりやすいが、『高級感』を演出するとき、完全に金や銀で作られていると輝かしいが、秀星はそれよりも、黒を基調として金や銀で装飾されている方が高級感があるように感じる。
出入口をぶち破っておいてなんだが、玉座が置かれているその空間は、全体的にそんな『高級感』溢れる空間になっていた。
外から日の光が入って綺麗なものだが、部屋の中は黒を基調として、金や銀で装飾されている。
そしてそれは、玉座に座る男も同じだ。
身長は二メートルを超えており、質の高そうな黒いスーツを着ている。
頭には角があるが、鬼というよりは悪魔、あるいは『魔人』という雰囲気だろう。
三十代半ばの人間が出せる若々しさ。という顔立ちである。
「よく来た。異星人」
「おっ、今度は正解か」
男性から異星人と言われて嬉しそうにうなずく秀星。
「……こ、こいつが、このダンジョンのラスボスか……」
ついてきた少女が震える声でそういった。
魔人と思われる男性の実力だが、地球で言えば魔王状態の基樹くらいだろう。正直、地球に来たとして止められるのは数人といったところだ。
セフィアでも倒すのは難しいだろう。まあ、その場合はごちゃごちゃいっている間に秀星が登場してしまうのだが。
ともかく、実力があることは確かだ。
強いとは言っても今の風香くらいの強さしかない少女にとっては雲の上のような存在である。
むしろ腰を抜かさない方が不思議である。
「……さて、少し話をしよう」
「話?」
「ああ。まず……君はカードを何枚持っている?」
「カード……ああ、ダンジョンマスターを倒したら手に入れたこれのことか?」
秀星はそういって、学生服の内ポケットから三枚の青いカードを取り出した。
「それのことだ」
「知ってそうな奴にまだ聞いてないんだが、これってなんなんだ?」
「ダンジョンカード。それに登録することで、ダンジョンマスターになることができる」
「ほー……」
「まあ、登録するだけでダンジョンを作らず、『すべて集める』ことも選択肢としては存在するがな」
その言葉に秀星は内心で『なるほどね』と頷いた。
アルエストの目的は、ノアスフィアに存在する全てのダンジョンを攻略して『図書館』に入ることだと言った。
ならば、魔人が言った『登録した上ですべて集める』という状況こそ、それに該当するのだろう。
「何か、知りたいことが分かったような顔だな」
「ああ。まあ、そんな感じかな」
「そうか」
「ことのついでに、一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「なんで、人間を狙うんだ?」
秀星はそういった。
正直、疑問に思っていたのだ。
ダンジョンマスターになる要素というのは数多く存在する。
それらのテンプレ解析でしかないが、主に人間というのはダンジョンの中で活動してもらうことでマナか何かを獲得するというものがあったはずだ。
この星に存在するダンジョンのモンスターが外に出られることは『仕様』として納得してもいい。
だが、『人間がいないとダンジョンが困る』というものだったはず。
最後に、ダンジョンそのものを強化するとして、強者を倒せばより多くの経験値かポイントを得てダンジョンを強化できるとして、もうもはや、そういう段階はもう昔の段階で通り越しているだろう。
人間というのは強者足りえない。
もちろん、付いてきた少女のように個体レベルで強い存在もいるにはいるが、それよりも強い存在がダンジョンの中にいくらでもいるような状態だ。
「答えは簡単だ。人間であるというだけで殺すと莫大なボーナスがある。殺すよりも多少ボーナスは下がるが、尊厳や人権を侵害する場合でも少なくないボーナスが入るようになっている」
女性なら慰み物にする、男性なら奴隷のようにこき使う。
それだけで、ボーナスがあると。
「……ダンジョンのシステムを作ったやつが人間嫌いってことはなんとなくわかったよ」
秀星は三枚の青いカードを制服の内ポケットに入れた。
その右手に、プレシャスを出現させる。
「そろそろ剣で語るということか」
「そういうことだ。正直……最初はダンジョンをいくつか残して、魔石とかそういったものを集めるための『資源』扱いにしようと思ってたが、その様子ではダンジョンが何をするかわからん。窮鼠猫を嚙むともいうからな。資源扱いは止めだ」
別にかみついてきても秀星なら何も怖くはないのだが、ノアスフィアという星に対して責任を負うつもりはないのだ。
図書館に興味はあったが、どうも、この魔人の話を聞いていると『カードにすべて登録したものだけが入れるのではないか?』という仮説が出てきて萎えてくる。
結果的に、ノアスフィアに対して魅力がどんどん薄れてきているのだ。
惑星に対してという視点で言えば化石燃料は大量にあるだろうが、そもそも秀星は魔法で化石燃料そのものを作れるので交渉材料にはならない。
地球人にとって、ダンジョンは利用するものだ。
だが、『そういう魅力』がこの世界にはない。
ダンジョンマスターを倒すとそのマスターが持っていたカードを手に入れることができて、そしてそのカードを使えば自分もダンジョンマスターになれる。
そうして今まで続いてきたのだろう。
そして消えることのないダンジョンの猛攻に、この星は耐えきれなかったのだ。
「フフッ。ここでどちらが正義かなど語るつもりはない。私も、そろそろ暴れたいと思っていたところだ」
魔人が立ち上がると、その手に剣を出現させた。
秀星もプレシャスの切っ先を魔人に向ける。
「……一つだけ言っておく」
「ん?」
「『対立する正しさ』という意味で『正義』って言葉を使ったんだろうが……正義なんて言うのは、悪いことをするときに同意を得たいときに使うツールだ。力でねじ伏せることしか考えてないんだろ?『自分さえよければそれでいい』やつが、正義の『議論』に参加するのは筋違いだ」
「確かに。これからは語らないことにしよう」
説教をする秀星と、それに頷く魔人。
次の瞬間、二人は剣を振り下ろした。




