第九百三十話
「うーん……」
プレシャスを振るって、門番……いや、単なる壁の前に立ってる人と戦っている秀星。
騎士の実力はかなり高いものだ。
しかし、それでも秀星のほうが格上であることも事実である。
「チッ。覇気のないやつめ。真面目に戦わんかぁ!」
騎士が剣を振り下ろしてくる。
それに対してプレシャスを振り上げて鍔迫り合いにする。
体格の方は騎士の方が上だが、逆に秀星の方が押し込んでいる。
「ぐっ……」
「確かにアンタの筋は悪くないんだが……なんだかなぁ」
ダンジョンを素早く踏破するべきだということは分かっている。
しかし、アルエストは司令官ではあるが何のスローガンも掲げないため、秀星だって気合が入るわけではない。モチベーションは重要なのだ。
そしてこの騎士だが、確かに弱くはない。地球でもトップクラスに位置するだろう。
だが、強敵ではない。
相手が地球基準でもトップクラスであろうと関係ない。
より『真理』に近い秀星は限界まで加減しているのだ。
このギアをちょっと上げるというのは、正直『ダルい』のである。
騎士の方は疲労が蓄積しているようで、肩で息をするようになっている。
ここから騎士の方が攻撃の精度が落ちていくだろう。
やる気を見出せるほどのものではない。
「く、クソガアアアアアアアア!」
激昂して剣を光らせる騎士。
鍔迫り合いのままでやってきて、かなり圧力がかかってきたが……それで秀星に勝つことは不可能である。
「な、何故だ……私は膂力的なステータスは限界まで鍛え上げているはず……」
「……」
秀星はその言い分を聞いて、『ゲームみたいな言い方だなぁ』と思いながらもあえてツッコむことはない。それに意味がないということもあるが、この騎士から聞き出せる話が多そうだからだ。詳しい判定をするのはまだあとにする。
ただし、別の切り口で問うことはする。
「限界まで鍛え上げる、か……その程度で『限界』なんて言ってると、俺みたいな化け物をどうにかすることはできんよ」
「ぐっ……」
「アンタらがどんな風に強くなってきたのかは知らんよ。まあ多分、レベルみたいなものがあって、倒せば倒すほど強くなるんだろうけどさ……」
「その通りだ」
ますますゲームっぽい。
「なるほど。レベルに上限が設けられていたら、そりゃ『限界まで鍛え上げてる』って言えるわな。ただ、そういうのはすぐに上限にたどり着いてしまって、きっと空しいことになるぞ」
「うるさい!ならば、貴様はどうやって、そこまで強くなったというのだ!」
「師匠からの教えでね。『嫌いなものほど観察せよ』だそうだ。人間、知らないことは弱点だからな」
日本人は基本的に英語の習得力が小さい。
英語が苦手。という考えを持っているものもいるだろう。秀星だってアルテマセンスを手に入れるまでは嫌いだった。
だが、それでは『日本語と英語の両方で書かれている契約書』を相手が出してきたとき、美味いこと言いくるめてサインをしてしまうことになる。
苦手なもの、嫌いなものほど、人はそこから離れて行くものだ。
そして『知識不足』になったところで、詐欺師が近づいてくるのである。
ありとあらゆることにこれは通ずる。
「なら、お前は何を知っている……」
「いろいろあるんだが、まあアンタが絶対にやらないことを一つ上げてやろうか。『人体実験は自分の体を使った方が一番わかりやすい』だよ」
そういって騎士の鎧に蹴りを入れた。
そのまま扉という名の壁まで吹っ飛んでいく。
壁に激突した騎士を見て、秀星は剣を光らせた。
「なっ……おい。それは……」
「アンタが何回かやってきた技だな。俺がやったらこうなるんだよ!」
秀星は剣を振り下ろす。
斬撃が飛ぶように騎士に向かっていき、そのまま斬撃に巻き込んで壁を破壊していく。
「……」
「……」
秀星と付いてきた少女は絶句する。
「……あれってさ。なんかどことなく『壁』っぽかったけど……」
「明らかに幅が五メートルはあるぞ。壁というより鉄の塊じゃないか?」
そう、ぶっ壊してみて気が付いたのだが、壁というよりは巨大な塊である。
……どうして?
(……あ、そうか)
秀星は分かった。
この壁のようなものだが、一応『出入口』であることに変わりはない。
ただ、ダンジョンマスターの力を使って、『出入口に巨大な塊のようなものを設置している』のだ。
罠として大岩を設置したりすることすらダンジョンマスターは可能なのだ。このダンジョンは城なのでそのような罠はなかったが、洞窟型であればあり得る話だろう。
『オブジェクト配置のシステム』を使って配置していただけなのだ。
自分が出るときは一度オブジェクトを収納して、そして出たらまた配置する。
これを繰り返しているだけなのである。
(……雑)
まあ、『知恵』と言われればそれまでだけどね。
すごく気分が沈んできた感じがするが、それはそれとして、秀星はサクサク進んでいった。




