第九百二十八話
結局、基樹とは適当に話していただけなので、それを終えてダンジョン都市の中を進んで、秀星は町の一番奥にある『城』の中に入っていった。
中はかなり入り組んだ作りになっており、攻められた時のことを想定されている。
かなり住む側としては使いにくいが、防衛能力という点では重要なのだろう。
しかし、『ワールドレコード・スタッフ』という『世界地図』の神器を持つ秀星にとっては入り組んでいようとどうでもいいことだ。
最上階への最短ルートを検索するだけですぐにわかるし、アルテマセンスによってそれを一瞬で頭の中に記憶することができる。
……たまに、最短ルートの中に『ここは面倒だから壁をぶち抜く』みたいな物騒な文句が書かれていたりするが、敵陣地の本拠点なので遠慮はない様だ。
(スタッフがこんな雑な文句をつけることは今までにもあったが……というか、壁を壊さないといけないくらい入り組んでるって、圧倒的に住みにくくないか?)
まるでこの城の主が最上階の玉座の間とそこにつながる部屋から一切出てこないと言わんばかりの設計である。
驚きを通り越して呆れしかでてこない。
「……ん?」
秀星はプレシャスを構えて廊下を歩いていたが、剣を真後ろに振り上げる。
その剣は、どうやら秀星を襲って来たらしい人物が持っていた短剣とぶつかって、短剣の方がバキリと折れた。
「なっ……」
体が露出しないような黒装束。ただし、体にぴっちりと張り付くつくりをしているのか、大きな胸が強調された格好だ。
頭をフードで隠しているが、うっすら見える金髪とその奥に見える顔は結構可愛らしいものだ。
短剣がボッキリと折れてしまって驚いているが。
だが、少女はその折れた短剣を投げ捨てると、背中側に装備していた二本の短剣を引き抜く。
「……ちょっと聞きたいんだが。君ってこの城を攻めてる側?俺も城を攻めてる側だから、あまり武器を向けられても……」
「何?……そ、そんな軽装でこの城に攻め込んだのか……自殺志願者かお前は」
秀星の格好は、沖野宮高校の制服のブレザーとズボンと普通の靴。
あとはプレシャスだけだ。
特にポーチなどは身に着けていないし、ポケットが膨らんでいるということもない。
ただ……
(いや、君も似たような格好では?君は自殺志願者なのかい?)
少女は最低限のポーチなども身に着けているのは確かだが。それでも『最低限』であり、『しっかりした装備を身に着けている』とはいいがたい。
秀星の軽装備を自殺志願者呼ばわりするというのなら、少女の方も同じだろう。
「俺は強いからな。で、君の目的はこの城で何をどこまですることなんだ?」
「このダンジョンマスターを討伐することに決まっているだろう。ここまで来るのにかなりの物資を使っている。この機を逃したら、もう討伐できないかもしれないからな」
「……なるほど」
秀星はどんなモンスターやマスターの配下が来ようと『そんなの知らんな!』と言わんばかりにぶっ倒しまくっていたが、少女の強さはおそらく今の風香くらいだろう。
確かに強いといえば強いのだが、この城にいる人間型のマスターの配下は全員が風香よりも強いだろう。
少女にとってはモンスターとの戦闘は出来る限り避けて通るものだ。
身に着けている装備はかなり隠蔽効果が高いため奇襲性に特化しており、『絶対に殺せるような毒か何か』に関しては一つ所持しているが、道中は基本的に隠れながら進んでいたと思われる。
「……そういうお前は、ここに何をしに来たんだ」
「正面からマスターを倒しに来た。いると邪魔なんでね」
「……そうか」
「あ、よかったらこれ食えよ」
異空間に手を突っ込んで、おにぎりが十個入った箱とお茶が入ったペットポトルを取り出す秀星。
それを少女に投げ渡した。
少女は慌てた様子でそれを受け取る。
「……今、どこから取り出した?」
「別にいいだろ。良かったら食えよ。見た感じ、二日は何も食べてないだろ」
「……」
少女は目をそらした。
配下の一体一体が自分よりも強いようなダンジョンだ。
死ぬ覚悟で挑んで、荷物が最低限だったことは間違いない。
が……あまりにも入り組んでいて迷子になっていた可能性はかなり高い。
少女の腹から『くうぅ~……』という音が聞こえた。
「……はぁ」
「い、いや、違う!これは……」
「違うも何もないだろ。ん?」
振り向くと、通路の正面に配下が出てきた。
どうやら遭遇したらしい。
「なんだお前たちは!」
「侵入者に決まってるだろ」
秀星は次の瞬間には肉薄しており、プレシャスを真横に一閃。
胴体が上下に分かれて、配下の人型モンスターはそのまま消えていった。
「……ば、馬鹿な……なんだその強さは……」
「驚いてばっかりだな。そんなんだと抜け毛増えるぞ」
「誰のせいだ!」
秀星のせいですね。
「……という感じで、俺は強いからな。まっ、勝手について来いよ」
「あっ、ま、待て!」
勝手に歩き出した秀星に、慌てて付いてくる少女。
ちなみにおにぎりは食べてます。




