第九百二十七話
「で、とりあえず今俺はダンジョンをボッコボコにしているわけだが、この星の現状を元魔王としてどう思う?」
『なかなかバイオレンスな状態で俺に電話をかけてくるのはこの際どうでもいいとして、俺、グリモアの新しい魔王としての属性を得たから『元』じゃないぞ』
周辺に対して大きな支配力を持つダンジョンに突撃した秀星だが、こちらも都市型のような形をしていた。
これは前のゴブリン帝国のダンジョンマスターからちらっと聞こえた話だが、どうやらダンジョン同士での交流や物流面で便利なものにするため、このようにしているらしい。
なお、秀星が突撃しているこのダンジョンだが、ちょうど、この星に来たときにレーダーキャッスルから見下ろしたときに行列を作っていたゴブリンたちの進行方向の先にあるダンジョンだ。
町にしておいた方が便利な部分というものはあるのだろう。
それはそれとして、単純にどんとこ進んでいるだけなので、暇になって基樹に電話を掛けていた。
「まあまあいいじゃん。で、どう思う?」
『どう思うと言われてもな……そもそも、グリモアとはダンジョンの形式が違うな。ダンジョンマスターに意思……いや、知性というか……』
「人間らしさ。だろ」
『それだな。それが備わっているダンジョンなんてグリモアにはなかったからな』
「なら。ますます……ゲーム感覚のように見えるな」
『ダンジョンマスターみたいなRPGをやってるような感覚ってことか?』
「ああ。町の中もなんだか変だ。あまりにも『無駄』とか『裏』が少ない」
『ん?』
「最初に町の地図みたいなものを作って、本当にその通りに作ったような感じだ。普通、町っていうのはそこまで規格して作れるようなものじゃないだろ」
『まあ、大体が方針が決定するくらいだろうな。いろいろ交渉があるだろうし……ああ、だから『ゲームみたい』って言ったのか』
「そういうこと」
いつでも配置可能なオブジェクトのような感覚で町を作ったような、そんなつくりをしている。
そう判断した最大の理由は……。
「あと、このダンジョン、山を切り取って平地を無理やりに作って、そこに町を作ってるな」
『かなり派手なことをする連中だな』
「ああ。だから当然、本拠地は切り取って崖みたいになっているところを背にして作られている。ここまで削るんだし、多分山の中も改造してるだろうな」
『要するに……城壁だとかいろいろあるけど、結論から言えば山そのものが巨大なダンジョンといったところか』
「ああ。山に穴をあけてそこに倉庫をはじめとした拠点を作るだなんてこと、普通は考えないし」
『秀星の場合はそもそも拠点すらいらないからな』
物資は全部保存箱に入れて、単騎で突撃して大暴れするだけだからね。
拠点もクソもないよ。
『とりあえず、ゲームをやってるみたいにダンジョンを作って、それで人間たちを攫って奴隷にしてるってわけか』
「ああ。それについてどう思う?」
『魔王という立場で言わせてもらえれば……それに忌避感を抱くか否か。それだけだろ。ダンジョンマスターにとってはそれが正しいんだ』
「……なるほど」
世の中というのは、最も強い概念を持つものが何を選択するかで決まる。
覇を望めば戦いが起こり、平和を望めば少なくとも最初に戦いという手段を持ち込むことは避けられる。
現在のノアスフィアはダンジョンマスターによって力で支配されており、そのダンジョンマスターが人間を奴隷扱いすることを選んだため、このようになっている。というだけの話だ。
『魔王と呼ばれる存在が言うことではないかもしれないが……俺は平和の方がいいと思うよ。ただ、平和っていうのは『幸福が共有されること』だ。だけど……』
「幸福は有限だから、平和を享受するためには戦う必要がある。か」
ならば、真の平和というのは『全ての人間が清貧に甘んじる』ということだろう。
無理な話だ。
『そうだ。ダンジョンマスターにとって幸福が何なのかはわからん。ただ……人間が持つ平和は奪われた。それだけのことだ。ノアスフィアと地球とグリモアしか、俺たちは『世界』というものを知らない。きっと、珍しいことじゃないんだろう』
基樹が何を見てきたのかは分からない。
ただ、どこか説得力のある話だ。
「なら、俺は、ダンジョンマスターから平和を奪うとしよう」
『まあ、それでいいんじゃね?誰も反対なんてしないさ。敵さん以外はな』
違いない。




