第九百二十六話
「セフィアに任せたらすごく楽だったな」
「そうですね」
秀星と電話した後、とりあえず子機の機能を使ってセフィアの端末をいくつか呼び出して炊き出しを依頼する。
最初から事情を察した状態で呼び出されるので、即座に行動を開始。
それぞれがオールハンターの保存箱の子機を持っていることもあって、炊き出しは順調に進んだ。
ただし、忘れてはいけないのは、このノアスフィアにおける活動の指揮官がアルエストであるということだ。
一々確認の言葉を聞いても仕方がないので、『アルエスト自身が何を考えているのかを意識しやすいような質問』で構成された質問シートをアルエストに書かせて、そこに書かれた情報をセフィア達が共有するということになっている。
「本当に優れた存在だな。それに……自力では炊き出しの場所に来れないような、身体的に衰弱している者を即座に発見して対応できる」
「正直、私たちが動く必要がないほどですね」
「ああ。確かに」
話しているアルエストとサレイアだが、そもそもノアスフィアにおいて求められるレベルであれば、秀星が動く必要すらほぼなく、セフィアに任せておいて問題ないのだ。
圧倒的な『人材』すら抱えるというのはそういうことである。
全員がメイド服を着ており、誰も着替えてくれないけどね。隠密行動を指示した場合、隠蔽魔法を使って人の感覚神経から逃れているが、この時もメイド服だからな。
「炊き出しをセフィアに任せておいて問題がないと分かった以上、私は現場のことではなく指揮官として考える必要があるか」
「そうですね。今まで自ら行動していた部分が多かったので、これからは指示をする立場として行動しましょう」
と思ったとき、再び着信音が。
スマホを確認すると、椿の番号だった。
「……もしもし」
『あ、アルエストさん!』
「どうかしたのか?」
『アジトに来た人が多すぎますよ!』
状況を察した。
どうやら、秀星はダンジョンにとらわれていた人間を全てアジトに送ったのだろう。
もともとその人間たちはアジトに住んでいたのだから、減った分の人数が戻るだけだ。
しかし、その人間がいない分、進めることができていない業務は確実にあるはずで、きっと椿一人ではどうしようもないことになっているのだろう。
「……セフィアに任せればいいのでは?」
『ふっふっふ。私が指示なんてできるわけないじゃないですか!』
だよね。
で、指示を出す側の人間ではないから現場の人間として行動しているわけか。
で、現場の人間として行動しているからこそ、アジトに来た人間が圧倒的に多くなって悲鳴を上げているという。
……椿らしいね。
「まあ。無理をしないようにな」
『むう、そうですね。セフィアさんに任せられる部分は自分で見つけて任せたいと思います』
きっと椿にできることはセフィアにもできると思うけど。という感想をアルエストは胸の中にしまっておくことにした、
「そうか。まあ、椿もたまには休むといい」
『そうですね。わかりました。アルエストさんも頑張ってくださいね!』
通話終了。
「……椿ちゃんからですね」
「ああ。救出された人数が多くて困っているようだ。セフィアに任せるということを知らないからな」
「そうですね……ただ正直、寝ている椿ちゃんをみているだけで癒される子もいるのでは?」
「だろうな」
寝ている姿が本当に無防備なのだ。
とっても可愛らしいので、見ているだけでも十分癒されるものはいるだろう。
「まあ、セフィアがいるし、椿が暴走しても風香がいるから問題はあるまい。とりあえず、町の中がある程度安定したら、食料生産などを改善するか」
ゴールが何なのかと言われても、まだ決まっていないとしか言いようがない。
ただ、アルエストは単なる援助者であって、彼らのリーダーではない。
目指すところがわかっていないと、線引きができなくなる。
(まあ……最悪この町からは夜逃げするか)
偽善と酔狂のようなものでしか今は動いていないのと同じだ。
続けるにも限度がある。
ので、いざとなれば夜逃げします。




