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第八百八十五話

「ふむ、なるほど、地上の方の開発は当然のように進んでいるが、地下の方も進んでいるな」


 『遊びに行ってもいいか?』と聞いて外に出てきたフォルノスだが、彼は九重市の地図を見ていた。

 それを見る限り、どこか『開発中』とも取れる場所が目に入るのだが、それがかなり地下に広がっている。


(ただ、単なる開発と言うには金をものすごくかけている。建築会社のホームページを見ると、近くにある会社の予約はかなり埋まっている。もともとあった地域住民のニーズに答えられる程度の余力は残しているようだが、開発にはかなりの予算が突っ込まれてるな。予想できる範囲での推測にしかならないが、九重市に拠点を置きたい企業からの依頼……というだけでは足りんな。国家予算か?)


 フォルノスは『不労所得だけでも食べていける』と言い切れるラターグと話しているだけあって、金の流れに関してはある程度わかっている部分がある。

 パッと目に入る情報だけを並べてみても、そこまでなら推測できる。


(魔法関係の技術が表に出てきたばかりと言っていたな。ただ、地上の建築ならともかく、地下の開発……いや、『開発』というより『拡張』と言ったほうが良いか。地下を掘り進める技術など、この地球の科学レベルを考えればかなり金がかかる。魔法関係の機材を導入するのが手っ取り早くはあるか)


 空いた時間で秀星が書いた実用書を読んだ限りでは、魔法技術に関しては進み具合が大きい。

 格安とは言わないが、国が金を出すとなれば首を縦に触れる程度の技術力にはなっている。


(で、こうして地下に来てみたわけだが、遠くの方から工事現場の音が響いてきてることを除けば、手前側はすでに使われているな)


 地下。とは言うものの、高さはだいたい十メートルはある。

 一体この地下空間に何を取り入れるつもりなのかは不明だが、整備状況によっては大型トラックが走り回ろうとも問題にならないだろう。

 コンクリートの壁に囲まれた空間の中だが、すでに内部では様々なサービスが提供されている。


(ふーむ……いろいろあるように見えて、宿泊関係が一切ない。何か狙っているのか?)


 目に入る情報を頭の中で並べていった結果、宿泊施設がなかった。

 飲食から娯楽に至るまでかなり広く取り扱っているように見えて、なぜか宿泊関係だけが一切ない。

 まあ、高さが十メートルとなると、作れる階層には限界があるので、もともと小さなホテルを作るつもりで入ってくるしかないだろう。

 ただそれを除外したとしても、一切ないというのはどういうことなのだろうか。


「……あ、これうまいな」


 店で買ったメンチカツを頬張ってうなずくフォルノス。

 お気に召したようだ。


「さてと……とりあえずブラブラするとして、どこに行ってみるかな……いや、その前に、なぜ私をつけているのか聞いておいたほうが良いかな?ミーシェ」


 フォルノスが振り向いた先にはT字路がある。

 その右側の角に目線を向けた。

 すると、ため息をついたような声が聞こえてくるとともに、ミーシェが顔を出す。


「……やっぱりわかる?」

「もちろんだ。お前にはいろいろ癖があるからな」

「ふむ……修正しているはずだけど、まだわからない」

「体の動きの話じゃなくて内面の話だ。私は精神的な部分を感知しやすいのでね」

「……毎回思うけど、それはずるい」


 無表情系のミーシェ。

 剣術というものを極めるためにかなり自分の体に対する細かい調整を続けているのだが、流石に内面の方は変えられない。

 というか、遠くにいる人間の精神的な部分を感知するというのは文字にされてもあまり理解できない領域だ。

 人間、アイデンティティは変えられない。

 非常に……非常に面倒な話だ。


「それで、なぜ私をつけていたのかな?」

「とあるものを受け取りたい」

「?」

「椿ちゃんのファッションショーの写真」

「……どこでそれを?」

「風香が自慢してきた。ウザかった」

「だったら本人が持っているものを奪えばいいじゃないか」

「本人から娘の成長記録を奪うことは私の心情に反する。だからあなたのところに来た」

「そこまで重い話でもないような気がするのだが……それは私の気のせいなのかな?まあそれはともかく、あれは私が全ての予算を出して企画したものでね。あまりタダで渡したくはない」

「……ちなみに」

「?」

「私が風香からもらわなかったのは、理由が2つある」

「2つ?1つ目はさっきの……」

「そう。あまり成長記録というものを母親から奪おうとは思わない。これは事実。そしてもう一つある」

「ほう」

「あなたの恥ずかしい過去の情報をたくさん聞いた」

「……」


 仏壇から鈴を持ってきて『チーン』と鳴らしたような顔になったフォルノス。


「今なら一つ晒すだけで交渉の席に座る」

「一つ晒すのは確定なのか!?」

「交渉次第では取り消される場合もある」

「……わ、わかった。交渉に応じよう」


 自らの汚点の情報。少し安すぎではなかろうかと疑問に思うフォルノスだった。

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