第八百八十二話
「で、国枝。新しい会長はどんな感じなんだ?」
「一言で言えば、極端だな」
沖野宮高校は魔戦士学校第一期の教育機関である。
当然、そこにつぎ込まれた国家予算はそれ相応に多い。
これらに加えて、生徒自身がすでに稼いでいるパターンが多いのだ。
さすがに風俗店は『すっごく遠く』にあるのだが(要するにないわけではない)、武器や防具などを取り扱っている店の他にも喫茶店がいろいろある。
ノンアルコールで完全に学生向けに作った喫茶店も存在するのだ。
とはいえ、あまりここで議論する必要はない。
二人は、『サターナ』という名前の喫茶店のカウンター席に座っている。
「店長。確か店長って神祖のこと知ってるよな」
「ええ、運命派のことも知っていますよ」
国枝の相方である亮真が店長に聞いた。
店長は黒髪黒目で眼鏡をかけている青年、茅宮道也である。
なお、彼はアトムがリーダーを務める魔戦士チーム『ドリーミィ・フロント』のメンバーであり、最近は漣黒馬という金髪糸目の三年生についていっている茅宮雫の義理の兄である。
いろいろと属性が突っ込んでいる……というよりは彼の周りが忙しいというべきだが、いずれにせよ、『アトムがリーダーのチームのメンバーである』というだけで、彼の魔戦士としての素質は分かるというものだ。
「じゃあ遠慮なくここで愚痴っていいか」
「そんなにすごいか?」
「ああ。神祖ゆえに、戦闘面の実力は全く問題はない。もともと神祖という時点で、秀星先輩をスペックで超えるくらいだ。当然。強さという点では圧倒的だ。ただ……頭の方が全然足りないんだよねぇ……」
かなりぶっちゃけている国枝。
「……まあ、そういうものでしょうね。そもそも、リーダーと言っても実力だけで形式的にそう選んでいるパターンが多いのが神祖ですからね」
道也から補足を受ける国枝。
「……まあ、いても四人の小さな派閥だから、実力で選ぶっていうのは分かるんだけどなぁ……」
基本的にチームというものは、最初から『少数精鋭』を掲げない限り、人が増えて行くものだ。
最初は人が少ないため、最も実力がある者がそのチームを率いるためにリーダーとなる。
メンバーの『野心の差』によっては実力だけではリーダーとならない場合もあるが、基本的に少数となるとそういうものだ。
チームが大きくなっていくと、それらの制御はリーダーの『指針』だけでは制御不可能となる。
そのため、『運営』を行えるものがリーダー……いや、その段階では『代表』といった方がいいだろう。そういう頭脳派がトップに就任する。
だが、神祖はそもそも数が少なく、基本的に何かをしようという気分になるわけではない。
神という要素を持つゆえに不老不死ではあるが、それと同時に、新しい神祖が出てこないと関わろうにも関わりにくい。という状態になる。
神祖のスペックは圧倒的なので、それらを完璧に制御する力が求められるのだ。
ちなみに、それらの『力の制御』において最も得意なのはフォルノスである。
だからこそ、学校生活ということで校内とダンジョンを動き回っているのだ。
ただいずれにせよ、フォルノスに対して実力は評価できるものの、運営力という点で評価できる部分はない。
「唯一の救いは、それを自覚していることか」
「そうだな。あらかじめ国枝がいろいろ交渉したら、結構素直に評価してたし。まあ、『客観的に』っていう視点がないとそもそも神祖にはたどり着けないだろうしな」
神になるという点だけで言えば、国枝は『自分の器を超える』というものだということにたどり着いている。
そして『じゃああれだけ強い秀星先輩がなぜ神にならないのか』ということに関しては、そもそも神器の影響で器そのものが強化されているからだと判断できる。
そして、『器』というのは人間に対しても使われる言葉ではあるが、自己覚知の末にわかるものだろう。客観的な視点がないとたどり着けないものだ。
ただし、そういった客観的な評価というものを全員ができるゆえに、戦う前からすべてが決まってしまって、全員が面白くないという状態になる。あまりメリットばかりではない。騒ぐ愚者も時には必要である。
「で、国枝はいいのか?」
「俺個人は構わない。ただ……牧人先輩は嫌だろうな」
「生徒会会計だっけ?」
「ああ。あれからクラブ活動の支援金も正式に決まったんだが、その代わりに牧人先輩の書類の量が三倍くらいになったからな」
「書類の量が三倍って……」
「システムは作ったけど、そのシステムを含めた部分がしっかりマニュアル化されていないからな。雑に届いてきて、集計リストを作るのが会計の仕事に加算されたんだよ」
何に対してチームをするのか。そしてその上でシステムとして運営するためにはどんなプログラムが必要なのか。
それらをセフィコットに発注したのはいいのだが、あまりにも多様性のある話なので、骨子は作ったのだがいろいろな部分で『確定』させてはいない。
もちろん、決めていない分の料金はとっていないので、追加注文が必要である。
「……会計の人数、増やしたほうがいいんじゃね?」
「誰もやりたくないんだよ。書類が圧倒的に多いからな」
「……」
「というか、なんで紙で届くんだろうな。電子データでいいのに」
「え、紙で届くの?」
「そうみたいだな。まあ、最近のスマホは写真データから文字を認識出来るから、ある程度はそれを使ってうまく短縮してるけど」
「となると、セフィコットに注文してリスト作成機能を作るしかないですね。とはいえ、その規格を作れる人間がいないのでは?」
「いや、宗一郎先輩ができるから頼みに行った」
「……え、行ったの?」
「ああ。俺が頼みに行った。あの人、実技単位は生徒会長だったから免除されてるし、大学は推薦をもらってて暇そうにしてるからな。生徒会長の任期は終わったけど。まあ働いてもらおうってことで」
「鬼かお前は」
「ついでに英里先輩がそばにいるときに頼みに行った。英里先輩は今の生徒会がうまく回ってるか結構心配してるからな。利用しました」
「鬼じゃなくてクズだな……」
亮真は苦笑する。
世の中、『良い人は苦労する』のだ。
誰もが怠けたいと考えている中でも、他人を使うのがうまい人間と、ただ頼まれたことをこなす人間の二種類がいる。
その場合、使うのがうまい人の方が得をする。
それが社会の真理というものである。




