第八百八十一話
「会長。これが実装初日の数字です」
とりあえずフォルノスはあの後、ダンジョンに潜って素材をかき集めていた。
世界中にいる大富豪たちに向けて取引される素材ばかり集めているのでその金額は莫大であり、いつもと違って明確に『金が必要だ!稼いでやる!』と思いながら戦ってしまってやりすぎたので、換金所の責任者が出てきたほどである。かわいそうに。
「ほう……まあ、私が昨日稼いだ金額を考えれば問題ないな」
「あんまり油断しないで。全校生徒の換金額の増加ってことは、秀星先輩が手に入れた素材も該当するんですし」
「忘れてたああああああ!」
スペックはともかく、実力という点では神祖クラスである秀星。
魔法省は学生に対して、その実力に沿ったノルマを課すことになっており、秀星はノルマとしてダントツの素材獲得を求められる。
魔戦士市場を刺激することが求められるが、魔戦士市場にも『ランク』のようなものがあるのだ。
最高ランクの魔戦士たちが必要とする素材がいろいろあるので、需要はしっかり存在する。
秀星も日本人であり、沖野宮高校に通う学生で、魔戦士としてクラス以上、このルールから逃れることはできないのだ。
まあセフィアがいるのでその気になれば勝手に隠居することも可能だが。
「……今まで以上に稼いだ方がいいか?」
「いや、まあ……先輩たちのノルマを確認しておきましたけど、秀星先輩は結構ギリギリで稼いでるみたいなので、今のペースを崩さない程度でいいと思いますけどね」
元々『ユグドラシル・ストア』で散々稼いでいるため、ダンジョンからの素材獲得に対してそこまで執着はない。
単位を取るために最低限潜っているだけだろう。
「だが、秀星が勝手に動いたらどうなるんだ?」
「昨日の時点でそれをしないように頼んでおきました」
「優秀だなお前……」
昨日の時点で交渉まですでに終えている。
現在の一・二年生で考えれば、純粋なスペックという意味では一位がフォルノス。二位が秀星。三位が風香。四位が国枝と言ったところだろう。
フォルノスと国枝は生徒会の事務で多忙なので、秀星と風香に対してちょっと自重してもらう必要があるわけだ。
「ついでに風香先輩にも頼んでおきました。まあ、秀星先輩が金持ちですし、そもそも風香先輩が稼いでる金額も相当なものなので十分でしょうしね」
「そ、そうか」
部下がめっちゃ優秀である。
「あと、風香先輩から手紙を預かってますよ」
そう言って封筒を取り出す国枝。
「私に?」
とりあえず封筒を受け取って、『親展』と書かれているそれの封を切って中を取り出す。
「……」
中身を読んでいるフォルノスの顔が苦虫を噛み潰したようなものに変わっていく。
「……何が書かれてたんですか?」
「椿のファッションショーの写真を全種類、タダですべてよこせと書かれている。全ての文字を赤ペンで」
「怖っ……てかファッションショーって……会長、何をやってるんですか?」
「ん?ああ、私はポイントチケットを個人で所有していなかったからな。生徒会も一応多額のチケットを抱えているが、予算と予備費をすでに確定していると判断して独自の入手が必要と考えたんだ。極秘プランということで椿に着せ替え人形になってもらって、セフィコットを呼んで裏金をもらったんだよ」
「極秘プランって……めっちゃバレてるじゃん」
「八代風香という女を甘く見ていたな……」
「で、渡さなかったらどうするって書かれてるんですか?」
単によこせというだけではうなずくことはないだろう。
フォルノス自身は過激派というわけではないし、癇癪持ちというわけでもないが、いつか使えそうな交渉カードを手放すような人間ではないことくらいは風香にもわかっているはずだ。
約束や命令というものは、それに違反した場合にどうなるのかのほうが重要である。
「いや……まあ、ちょっとバラされると嫌なネタが私にはいくつかあるわけだ。犯罪とかそういうわけではなく、私の沽券に関わるような内容だが」
「ならバレても問題ないですね」
「お前遠慮がなさすぎるだろ!」
「まあそれはいいとして、いろいろネタがあるんですね」
「むう、まあ、そんなところだ。なんで知ってるんだろう……」
「秀星先輩の家って、先輩の師匠がいますよね。それに、鑑定神祖には一時期、寄生神祖が入り込んでいたとか?愚痴るような感覚で漏らしていた可能性はありますよね。会長がリーダーだと苦労すること多そうですし」
「そっち経由で伝わったのか!ていうか苦労すること多そうってどういう意味だ!」
「自分の胸に手を当てて考えてみてください」
ぐうの音も出ないフォルノスである。
「というか、なんで国枝は運命派のことを知ってるんだ?」
「堕落神ラターグと時々話すので、フォルノスさんの愚痴を聞いてます」
「あまり私っていい噂がないな……」
自業自得である。
「あと、ちょっと気になってるんですが……」
「なんだ?」
「話を聞いていた感じ、ライズさんはパライドさんに寄生されていたわけですよね。ただ、ライズさんはそのことに対してあまり怒りを感じていないような気がするんですが……」
「んー……まあ、人間の感覚だと、確かに寄生されるっていうのは嫌なことかもしれんが、神祖は時間がある割にすることがないからな。多分普段とちょっと刺激が違う程度にしか感じてないと思うぞ。ライズってマゾだし」
「そうなんですか?」
「ああ。多分、時々ミーシェのストレス発散に使われてると思うぞ」
「……聞きたくなかった。写真をみせてもらったけどすごく美人だったのに」
「残念だったな。まあそれはそれとして……とりあえず写真を用意しておく必要があるな」
ため息をつくフォルノス。
「とりあえず、会長がポイントチケットを手に入れたということは、俺の臨時収入は使われてないってことですね。それなら、そっちの方はクラブ活動支援の方に使いましょうか」
「えっ、国枝の臨時収入?」
「本来は換金額の増加に使う予定だったんですけどね」
「じゃなくて、お前、その臨時収入ってどうやって……」
「チケットの胴元である秀星先輩に交渉しました」
「マジかよ……」
秀星を相手に口で勝負に挑みに行ったようだ。
そして実際にチケットを得ているというのだから優秀すぎる。
「おそらく会長が手に入れたチケットは余ってるでしょ。増額のコンセプトははっきりしてるのでそこまでかかってないでしょうし。それと俺の臨時収入を合わせたら、十分な額になるでしょ」
「……」
これではどちらが会長なのやら。
ついでにいうと、このままでは少々まずい。
フォルノスは『期待』で、国枝は『現実的』という要素でそれぞれ票が集まっていたのだ。
このままズルズルと国枝が舵をとっていると、自分の支持率の低下も起こり得る。
まあ国枝がそこまで考えているとは思わないが、だからといってあまり気分のいい話ではない。
(私もいろいろ考えなければな……)
ただ、こういうときは感覚でポンッとやってみるものだ。
一度『考える』という姿勢でやってしまうと、いつまでも人間はやらないものである。
それがわからないあたり、フォルノスも普通の人間と変わらない。




