第八百八十話
とりあえずフォルノスが掲げた公約のうちの一つである『素材換金額の増加』の方は、ほぼ滞りなく行われることになった。
生徒たちが単位獲得に使うダンジョンの場所は基本的に変わらないので、そことうまく連携して金は全て生徒会持ちにすることができればそれで済むシステムである。
問題は、会計上発生するプログラム的に必要な部分をどう補うのか。というものだ。
それさえ解決できればいい。
そして、セフィコットに発注することでそれらは完了した。
「とりあえず……チームのことは放置するか」
「……」
「なんだ?国枝」
「いや、もともとあんた自らが掲げた公約なのに、それでいいのかって思ってね」
「チームの定義を考えるのは別に難しいことではない。何人以上か、また年齢制限を求めるのかどうか。いろいろあるんだが……」
「が?」
「与える予算額を一律にすると、チームによっては不平等になるからな」
「あー。なるほど」
チームというものは運営するだけで金がかかるものだ。
そして、その金のかかり方はチームによって異なる。
チームの目的……特に開発などが絡んでくると、その予算はとても大きくなる。
経費はとんでもない額になるのだ。
そんなチームと他の零細チームへの援助金が同額になったら不満が出るだろう。
「人数を基準にすれば幽霊部員が増えるだけ。経費を基準にすればうまく言葉と数字をいじって抜かれるだけ。まあ、そうなるのは当たり前だよな」
「ああ。それに比べると素材の換金額の増加はシンプルだな。ダンジョンから出てきてすぐの学生たちが換金所に持ち込んで、学生証を提示すれば増額できる。非常にシンプルだ」
ただ、穴がないというわけではない。
「まあ、ダンジョンの中でプロの魔戦士から素材を受け取っておいて、あとでそのプロに交渉時に決めた金額を渡すという手段もあるから抜け穴がないとは言わないが、その程度だしな」
「クラブ活動っていってもいろいろな形態があるからな……会長はなんでこんな面倒な公約を掲げたんだよ」
「クラブ活動への予算が低いと思ったからな。刺激すれば票が集まると思った」
「ほとんどの生徒が関係ねえじゃん」
「ぐうの音もでんな……」
何も考えていないわけではないのだが、いまいち視点がボケている。
まあ、地球に来たばかりなので仕方がないといえばそれまでだが。
「はぁ、とりあえず保留だと決めたのなら構わないよ。というわけで、さっさとダンジョンに行って稼いできてくれない?」
「え?」
「え、じゃないよ。さっき自分で言った抜け道が使われそうになってて、予想よりもこっちの必要経費が上がりそうなんだ。さっさと行って稼いできなさい」
プロが学生を利用して手持ちの金を増やすという先程言っていた手法だ。
「なんで最初に禁止にしなかったんだよ……」
「しなくてもいいような数字に設定してたよ。俺は」
「……わかった。稼いでくる。あと、もう一ついいか?」
「ん?」
「学生がダンジョンでモンスターを倒して素材を獲得するのは、単位獲得のために必要なことだよな。プロから受け取った素材を売って、それが単位計算に計上されたらどうするんだ?」
「学生証には自分が倒したモンスターなのかを判断できる機能が備わってるから、身につけておけば問題ないよ。ついでに言えば、学生証を身に着けてダンジョンに潜ったときだけ、単位計算の対象になるようなルールになっているからね」
「……」
本当の意味でぐうの音も出ないフォルノスである。
そして、これには2つの意味があった。
「……やっちまったな」
「……俺はその言葉だけで『理解』できるんだが……今まで身につけてなかったな」
フォルノスは一応ダンジョンに潜ってモンスターを倒しているが、その際に学生証を携帯していなかったようだ。
単位には計上されません!
「これからは所持するようにしよう。そうか、カウンターにいた受付が訝しげな目をしていたのは、ダンジョンの中でも奥の方に行かないと手に入らない素材を提出したからじゃなくて、学生証を一緒に見せなかったからなんだな」
「なんで持っていかなかったんだ?」
「いや、制服きてたらわかるかなって」
「幻惑、偽造、誘導……いろいろあるんだ。そんなことが通用するわけ無いだろ」
「デスヨネー」
国枝は『本当にこいつが生徒会長で大丈夫なのか?』と思って、そして『いや、大丈夫なわけないか。戦闘力はともかく、運営に関しては俺がやらないと……』とげんなりした。
それがただしい。
「というわけで、私はこれから稼いでくるが……事務作業は問題ないか?」
「会長がいたほうが不安だ」
「ひどくないか!?」
「いや、適切な評価だろ。そもそも、少数をまとめる程度の能力しか持ってないでしょ」
「……」
フォルノスは神祖の中の派閥の一つである『運命派』のリーダーである。
だが、規模としてはとても小さく、メンバーは剣術神祖ミーシェ、寄生神祖パライド、そしてまだ封印が解かれていないもう一人を含めて、合計四人しかいないチームだ。
確かに戦闘力はともかく、チームの運営という意味ではほぼできない。
ついでにいうと頭脳担当がパライドなので全部押し付けていた。
もう一人の解放されていない神祖はラターグの友達と言っていい性格なので、運営だとか事務だとか、そういう意味では役にも立たないのである。
「まあ、そうだな。小さいチームを率いるくらいだな」
「というわけで、運営は俺がやるから、会長はさっさと労働担当ということで行ってくれない?」
「……なあ国枝」
「?」
「日本語理解というスキルを持っているお前だ。神祖というものがどういうものなのかは知っているだろう。ちょっと遠慮がなさすぎるんじゃないか?」
「神祖といってもピンキリだろ」
「そう言われるとそれまでだが……はぁ、まあいいか。とにかく行ってくる」
口で勝てるかどうかという点に関して、国枝が敵となる時点でかなり不利である。
フォルノスはそれがなんとなくわかってきたので、さっさとダンジョンに行くことにした。
……学生証を回収して。




