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第八百七十六話

「んにゃあああああああ!」


 椿が刀を振るう。

 それに対して、秀星は魔法で即席で作った剣を使って受け止める。

 ガキンッ!と音がして刀は止まった。

 そこから、椿は一度刀を引いて、連撃を叩き込んでいく。


 当然、秀星にはその程度ではあたらず、そのまま弾くか受け止めて回避していく。


「むうううううううう!」


 一発も当たらないことに対して何を思ったのか、椿が奇声を漏らす。

 刀に風を纏わせて、それを振るう。

 しかし、その風も、秀星が魔力を纏わせた剣で受け止めると霧散してしまい、特にこの戦闘において何も影響はない。


「技術的な完成度は高いはずなんだがなぁ……剣筋がものすごく素直なんだよな」


 剣というものは敵の隙を突くものだ。

 もちろん椿も隙を突こうと頑張っているのだが、秀星のからめ手にはすべて引っかかるのだ。

 『多分こうしたら椿はここに刀を振ってくるだろうな』というのが全てわかるのである。

 これでは楽すぎて何も言えない。


「むうう!未来では学年で負けなしでしたよ!……いや、でも、一人勝てなかったような……まあそれはそれとして、お父さんが強すぎるんですよ!」

「そりゃそうだ。おそらくだが、未来の俺は今の俺よりも、『アイテムマスター』の力に制限がかかってるだろ。今の俺の方が強いに決まってる」


 推測も混ぜて話す秀星だが、そもそもの話、おそらく天地がひっくり返っても椿が秀星に勝つことはできないだろう。

 強いとかそういうものレベルをとっくの昔に超えているのだ。


「……椿ちゃん。『書類整理でなまった体を動かしたいです!』って言ってたのに、秀星君が相手だと逆にストレスをためてないかな」

「私が剣術を仕込んだ秀星を相手に剣で挑んで敵うはずもない。ただ……奇声を発する椿は見ていて面白い」


 風香はため息交じりにそういうが、ミーシェからすればこの結果は当然のことだ。

 椿は『むううううう!』とか『うにゃあああああ!』とかそういう奇声を発するのだが、そのどれもが『おー、なんか頑張ってるなぁ』という感情を他者に与えるため、見ていて面白いのだ。


「まあ、最近はフォルノスさんが何か唸ってるみたいだし、書類の方でもそれがにじみ出ていたりするのかな」

「……む?フォルノスが何かやってるの?」


 ミーシェは風香のつぶやきに首をかしげる。


「……フォルノスさんって、『運命派』のリーダーだよね」

「その通り。運命スキルをレルクスを除いて最初に手に入れた存在で、運命派の中では彼が一番強い」

「あんまり興味なかったりするの?」

「運命派は基本的に個人主義。何となく相談しようかなって思ったときに会う程度。というより……神祖が常に二人組になって動いているとその影響力が強すぎて、全知神レルクスが飛んでくるからみんなやらない」

「……クリスマスイベントの時に見たけど、そこまで凄い神なの?」

「凄い。時々フィクションで『未来予知』の力を持っていても負けたりするけど、ああいうのは大体、『情報を常に認識するのではなくその都度アクセスしなければならない』か、『そもそも未来という情報体が大きすぎてスペックが足りていない』かのどちらか。全知神レルクスは『完全な情報体そのもの』だから、負けるということがそもそも存在しない」

「チート過ぎない?」

「『文字通りの全知』だから、まあ無理」


 そんな存在である。全知神レルクスは文字通り、攻略不可能なのだ。


「話を少し戻すけど、フォルノスが何をやっているの?」

「沖野宮高校に編入してきて、生徒会長に立候補してる」

「ふーん……支持は二割くらい?」

「え、なんでわかるの?」

「そんなものだから」


 かわいそう……。


「ちなみに公約はどうなっている?」

「公約を聞く前に支持率を当てるのがなんとも……今のところ立候補者は二人いて、フォルノスさんは『クラブ活動に対する予算を増やす』というもので、もう一人は『素材の換金額を上げる』って主張している」

「もう一人だけど、実力はどれくらい?」

「意外と真面目な性格だと思うよ。持っているスキルは『日本語理解』だったかな」

「フォルノスが勝てるわけがない」


 ミーシェ自身、『日本語理解』というスキルの本質は見えている。

 神が使っている言葉も日本語なのだ。日本語を理解できるというスキルはそれだけ大きな価値を持っている。


「フォルノスさんが勝てるとしたら、どうすればいいと思う?」

「今すぐに公約を捨てて、もう一人の立候補者と全く同じ公約を掲げるべき。さすがに神祖ほどの実力は持っていないはず。この地球のモンスターから取れる素材の価値を考えれば、フォルノスの方が『増加額』が大きくできる」

「あ、そっか。増加額が青天井でどんどん上がっていった場合、フォルノスさんの方が余裕があるもんね」

「フォルノスはこの地球に来たばかりだから日本円の貯蓄はないはず。おそらくモンスターを討伐した金で今も生活していると思うけど、おそらく今から稼ぎ始めてもフォルノスの方が多いはず」

「なるほど、そういうことか……」


 金というものは複雑だが多様性もまた存在する。

 単純に生徒に配る量が多くなれば、それによって影響も大きくなるだろう。


「もちろん、学生にそこまで大金を持たせるようなことになるのは良い顔をされないから、その場合はどちらかが妥協するしかない」

「まあ、確かにね……ミーシェさんはフォルノスさんが生徒会長になったらどうなると思う?」

「……おそらく定期的な『主張』はあると思う。出落神祖と呼ばれることを嫌うから」

「昔から言われてるの?」

「出てきて五秒で退場というのが昔のフォルノスの鉄板だった」

「不憫だね……」


 結論から言えば、ミーシェにも擁護はできない。ということである。

 まあ、最近は彼にスポットが当たり気味だし、今のうちに頑張ってもらいたい。

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