第八百七十二話
組織において必要なのは分析力と行動力である。
細分化していけばキリがないのだが、学生レベルで求められる能力はだいたいその2つがあれば十分だろう。
そもそも組織の完成度というものが学生レベルではそう高いものでもない。もとが普通科高校である沖野宮高校も同様だ。
ちょっとした分析力があり、そしてそれを実際に行動に移すだけの気持ちがあれば、組織というものは動くもの。
とはいえ、その『分析力』と『行動力』が一人の人間に同時に宿るかどうかと言われるとそういうものではない。
「zzz……はっ!寝てないですよ!」
そして、椿は行動力はあるが分析能力があまりない人間である。
未来でセフィアが家庭教師を努めているので馬鹿ではない。
ただし、それはテストの答案が解けるとかそういうレベルの話であり、さらに言えば未来でも魔戦士専門学校に通っている椿は、戦闘面での実力があれば十分なのだ。
そういう環境では、賢いとはいえ、分析能力が鍛えられることがない。
それに、親戚がだいたいものすごく強いので、何重にも守られている。
危機感という状態から開放されており、それ故に誰にでも素直に接することが可能なのだが、選挙管理委員会という組織においてはあまり価値のある能力ではない。
人の不幸で笑う子だが、人のミスを発見することに慣れていないのだ。
「うん。わかってるよ。頑張ってね」
「はい!」
空いている部屋を使って作成された『選挙管理委員会本部』
そこでは、椿を会長にして数名がいろいろな資料を作成していた。
で、椿はものすごくウトウトしている。
というかたまに机に伏せて熟睡している。
当然よだれも垂れっぱなしだが、どうせ何も書いていないので、新しく印刷すれば何も問題はない。
椿に資料を渡す生徒の方も、椿になんの資料を渡したのかを覚えているのだ。
「むにゃ……むう〜……」
起きたのはいいがどうやらまだ眠い様子の椿。
まあ、別に椿に関してはそれでいいと考えている。
選挙管理委員会というものは各クラスから1、または2名ほど選出されるものなので、各学年5クラスの沖野宮高校は30人が集まっている。
ちなみに全員が生徒会から直接指名された生徒なので、結構真面目だ。
秀星が所属する2年1組からは御剣羽計とエイミー・ルイスが選ばれており、2年1組の席から見守っている。
『あ〜かわいい〜』
というのが、選挙管理委員会の総意である。
小動物とマスコットがもつ可愛らしさをミックスさせたような椿は可愛らしいのだ。
それに、普段から元気な様子で動き回る上に、寝るときは基本爆睡なので、こうした『頭が働かずにウトウトしている』という椿はなかなか見られないのである。
「zzz……」
また寝てしまった椿。
机に伏せてすやすやと眠っている。
横にいた三年の女子生徒がそーっと近づいて、椿の頬をツンツンっとついてみた。
「むぅ〜♪」
『ああああ〜〜っ!かわいいい〜〜っ!』
……禁断症状が出たようだ。早く病院に行ったほうがいい。
ただ、これに釣られて多くの女子生徒が椿のところに集まってくる。
なお、椿は人の接近に対してストレスを感じないので、そのまま寝ている。
ツンツンとつついたりむにぃ〜と引っ張ってみたり、耳にふうっと息を吹きかけてみたりして遊び始める女子生徒たち。
椿は『むふ〜♪』と喜んでいる。
『やばい。たべちゃいたい!』
『これは尊いわぁ!』
『ああああ〜母性本能が刺激されるううう〜〜っ!』
……禁断症状が伝染したようだ。もう手遅れだろう。
ただここで、とある女子生徒は、あることがやりたくなった。
……『ハグ』である。
とんでもなく、『ギュウウウッ!』としたい衝動に駆られたのだ。
そしてこの衝動に駆られた人間は、だいたいその欲望に逆らうことができない。
一人の女子生徒が両手を広げて……隣の女子生徒から肩をガシッと掴まれる。
その女子生徒の目は語っている。『流石にそれはまずい』と。
……まあ男子生徒からすれば目の保養になるし、そもそもセフィコットがガン見しながら録画しているので手遅れ感があるが、ここで突っ込むのは無粋とさせてもらおう。
「む?……ふああ〜……」
「「「「!?」」」」
椿が覚醒。
周りの女子生徒は慌てた。
ものすごく『意地悪』をしていた自覚を持っていたのか、おもちゃである椿が起きた瞬間に慌てているのだ。手遅れに決まっているだろう。
「!……寝てないですよ!」
無茶である。
ただ、許されてしまうのが椿という人間である。
実際、尊いからね。
これが今年の選挙管理委員会のデフォである。
……絶対に進んでいないだろう。これ。




