第八百七十一話
「出来る限り選挙活動に集中したいが、ノルマが面倒だな」
「沖野宮高校の生徒になってしまった以上、それは仕方がないな」
魔戦士は何をする職業なのか。
これに関する魔法省公式の記載は、『モンスターが存在するエリアから素材を持ち帰り、それを市場に換金することで供給し、魔戦士市場を発展させること』である。
森や山といった場所でモンスターを狩る場合、モンスターにも生態系というものが存在するので乱獲すると崩れてひどい目に合う。
しかし、ダンジョンに関しては、ダンジョンそのものがモンスターを生み出す上に、出入り口が数か所程度なので出入りを組織が管理しやすく、さらにモンスターの強さの上限も高め、しかも、レンガやコンクリートなどが使用された建造物という安定した環境故に、しっかりしたマップを作って計画を立てることができれば、そこに他の魔戦士がたどり着いてこない限り、安定した収入を得られるということで人気である。もちろん、自然の方を放置するとそれはそれでひどいことになるのだが。
結論から言えば、モンスターを狩ることは必要なのだ。
「しかし、学生とはいえ、ここまで潜らせるとは……」
「いや、学生は魔戦士としては仮免扱いだから、モンスターを討伐して素材を持ち帰る義務はないぞ」
「そうなのか?」
「ルール見とけよ」
「……」
確かに、ルールを行使することができるものがルールを知らないというのは恐ろしい話だ。別に現代じゃ珍しくないけど。
「ではなぜ学生はこうしてモンスターを倒しているんだ?」
「単位」
「あ、卒業に必要なのか」
厳密には『実技単位』ということになる。
もちろん、こういう名前にされているため、様々な作成・研究でも実技単位を取ることは可能である。
そのため、現代の技術を超える『何か』を知っている場合、それを提出して実技単位を取得することは可能である。一定未満の実力であるという条件はあるが。
「沖野宮高校に限らず、新しく魔戦士学校として再編された学校は基本的に午前中しか授業がないからな。午後は基本的に実技単位を取るために行動することになる」
「あー……たしかにそういうルールになっていたな」
だからこそ、最後の最後に『実技単位が足りない』となると、『今までお前何やってたの?』となるのだ。
もちろん、それぞれの事情というものがある。
こういったものは基本的に自己申告して、その上で調査や検証を行って、その結果としてわかるのが多数だが、鑑定スキルを鍛えているものが教師になっているので、生徒側からの主張がなくてもわかるのだ。
結論を言うと、現在の三年生はすべての生徒がすでに実技単位を取得し終わっている。
まあこれに関しては数値の設定が甘かっただけだ。最初から高くしすぎても反感を食らうだけだし。
「そういえば、俺は動画を見てないんだが、一体何を主張するつもりなんだ?」
「いや、動画見ろよ……私は今回、『クラブ活動の予算を増やす』ということを主張しているぞ」
「教えてくれるのか」
「お前の清き一票が勝敗に関わるかもしれないからな……ちなみに、ここで選挙活動に関わりそうなことをいくら言っても違反にはならないぞ。ダメって書かれてなかったからな」
「まあ、学生レベルであんまりガチガチにしてもってところか」
「で、選挙管理委員会の会長がゆるゆるだからな。いくらでも出し抜きようがある」
権力を持つものがユルユルだとそのルールのもとで悪いことが行われるのはいつの時代も変わらないらしい。知っているけど。
「……まあ、それに関しては椿が考えることか。で、クラブ活動って?」
「金の話だ。予算表を見たが、確かに悪い数字ではない。ただし、あまりいい数字とは言えなかったからな。学校が再編して始まったばかりだから、ある程度マニュアルはしっかりしているが、そのマニュアルの範囲でいろいろ飛び散っていた。とりあえず生徒会の財政的に『余裕』を残しつつ、クラブ活動への金を増やすつもりだ」
「ほー……フォルノスって金のことってわかるんだな」
「教師はラターグだがな」
「不労所得のコツしか知らんだろアイツ……」
「いや、金の構造をわかっているからこそ不労所得で稼いでるからな……」
「……あえてそれはいいとして、大丈夫なのか?魔戦士学校っていう新しい環境だが、そもそも日本人だし、金に関して嫌悪感を持っているやつは多いぞ」
「悪いことをするつもりじゃないし、第一金ならしっかり数字が出るからな。グラフのような視覚的に訴える資料を作りやすい」
「そういう戦略ね……」
おそらくグラフ作成に関するスキルがあるのだろう。
「……よし、ノルマは終わった。今日の動画の投稿があるから私は退散するぞ」
「毎日更新するつもりなのか……」
フォルノスはぱっぱとダンジョンから去っていく。
忙しいやつだと思いながら、秀星はモンスターを再び狩っていくことにした。




