第八百六十九話
「お父さん!選挙管理委員会の会長になれましたよ!」
「……そうか。よかったな」
始業式があった翌日。
沖野宮高校は課題テストなど存在しないので、冬休みの課題をやっているものはなんの抵抗感もなく学校に来ている。
そして朝のSHRでリオ先生からいろいろ連絡事項を聞いた後、椿が選挙管理委員会の会長になったことが発表された。
その認定書のようなものを掲げて喜んでいる。
正直、秀星は興味が皆無である。
生徒会選挙そのものに興味がない上に立候補者はどうでもいいのだ。選挙管理委員会という組織が必要なのはわかるが、その責任者になれたからと言って楽しくはない。
……まあ、椿は今も『むっふーん!』と胸を張って自慢している様子なのでそんな内心を吐露することはないが。
「椿ちゃん。選挙管理委員会って何をするところなの?」
「……選挙を管理する委員会ですね!」
注意、椿ちゃんは真面目です。ふざけているわけではありません。
「……そうか」
秀星は『選挙管理委員会はこの椿をトップに据えて運営されるのか……大変だな』と少し同情した。
というか、ぶっちゃけ何をするのかよくわかっていない組織によく入りたいと思ったものである。
そしてその委員会のトップになりたいとは……不思議な子だ。今に始まったことではないけど。
「椿ちゃん。何をするのかはしっかり調べておかないとだめだよ」
「そうですね……とりあえずメガホンを用意しておいた方がいいですかね?」
それは立候補者のアイテムでは?
「なんでメガホン?」
「違反している人がいたらそれを使って注意するからですよ!」
「そ、そっか……」
言いたいことは分かるのだが、どこかズレているような気がするのは気のせいだろうか。
……気のせいではない気がする。
というか、会長というからには届いてくる資料をまとめるのが仕事になるだろう。椿は自分が思いっきり現場の人間になると思っているようだが。
「で、選挙管理委員会が設置される場所は決まってるのか?」
「すでに決まっているみたいですね。部屋も書かれてますよ」
沖野宮高校には使われていない部屋がそこそこあるのだ。
そこを軽く掃除するだけですぐに使えるようになるだろう。
セフィコットに頼めばほぼ一瞬でやってくれるはずだ。
というか普段から暇そうにしているセフィコットが掃除を普段からしているところまであり得る。
それらの一つを使うことになるのだろう。
「今からとても楽しみですよ!」
ほわほわした笑顔で選挙管理委員会の会長任命書を見ている椿。
正直、癒し系になれそうだが、他の何かになれる感じはしない。
……まあ、それでもいいというのなら別に問題はない話であるが。
「まだ時間ありますよね。ちょっと部屋を見てきます!」
そういって、椿は廊下に出て、ものすごい早歩きで去っていった。
ポスターがあって『廊下を走るな』と書かれているからね。
「秀星君。どう思う?」
「……まあ、楽しそうだし、良いんじゃないか?変なことを言うけど、迷惑をかける子じゃないしな」
「そんなものかな」
「そんなもんだろ」
さすがに生徒会選挙でそこまでワヤクソになることはないはずだ。
神祖であるフォルノスがどう動くのかはわからないが、昨日一日で確認していた限り、一応『学校生活』というものをある程度理解しているようで(経験はなさそうだが)、すっかり周囲に溶け込んでいた。
全体的に『白』という印象があるフォルノスだが、基本的に悪い奴ではないので。
「さーて、どうなるんだろうな。嫌な予感はしないけど変な予感はする」
「それはフォルノスさんが編入してきたときからみんな分かってたことだよ」
「確かに」
言われてみればそうだ。
神にも色々いるので、別に神祖が編入してきたとしても、沖野宮高校の生徒はビクともしない。
それもそれでいろいろおかしいのだが、今更なことだ。
「……フォルノスは何を言って票を勝ち取るつもりなのかねぇ……」
魔法学校化して最初の生徒会選挙であると同時に、神祖が在籍する学校という意味でも初の生徒会選挙である。
これで滞りなく終わったらそれはそれで問題があるだろう。
乱を望むことはない。静かな方がいいに決まっている。
ただきっと、面倒なことになるのは避けられない。
そういうものだ。めんどうだけどね。




