第八百六十八話
「……はっ?編入してきたフォルノスが、生徒会長になりたくて活動してる?」
「みたいですね。立候補の書類もしっかりまとめて提出してきました」
鈴木宗一郎と古道英里。
現在の生徒会の会長と副会長であり、現在は引継ぎ用の書類を作っている。
沖野宮高校は生徒会室と、その隣に『生徒会長室』と呼ばれる専用の部屋が存在する。
二人はその『生徒会長室』でマニュアル作成をやっていたのだが、その『提出書類』をみて宗一郎が首をかしげたのである。
「まあ、確かに生徒会長という椅子にはうまみはあるが、神祖から見てとなるとないと思うんだが?」
マニュアル作成のために必要なマトリックスの図を描いて、他の資料を見ている宗一郎。
「別に関係はないのでは?生徒会長として手に入れることができるのは、予算と、私がバトルロイヤルを利用して作った『派閥』の運用権限程度です。現在次期会長候補筆頭である国枝君も、別に必要とはしていませんし」
『魔戦士学校市場の平均的な規模』を考慮すると、確かに沖野宮高校は秀星が魔改造してしまったせいでかなりレベルが高くなっているが、それでも学生レベルである。
その学生レベルで考えると、国枝もフォルノスも戦力を求めているわけではない。
ちなみに、国枝は正直やる気はなさそうだが、フォルノスはやる気がある。という違いはある。
「ふーむ……正直、神祖が生徒会長になるというのがどういうことを意味するのか分からん」
「でしょうね。秀星君が言うには、神々が多く存在する天界にも学校はありますが、そのいずれにおいても、神々がそれらの重役につくことはほぼないそうです。前例がゼロというわけではないでしょう。しかし、前例を発見できたとして参考になるとは思えませんし……」
「……予想できる範囲だが、一応秀星がいるからな。調節できる部分は勝手にやるだろう」
「そうでしょうね」
生徒会長の椅子に権力があるのは間違いない。
ある程度なら沖野宮高校に存在するルールを変更することも不可能ではない。
だが、宗一郎も英里も、秀星が幾度となく既存のルールの中に独自のルールをぶち込んできたところを目にしている。筆頭はポイントチケットだ。
「ただ、ルールを弄ってきたという立場をとる秀星と違い、ルールを作る側になるフォルノスが何を考えているかだが……こればかりは彼が掲げる主張を聞けばわかる話か」
「そうですね」
主張に関する予想をしたところで意味はない。
なんせ、フォルノスがこの学校に来た当日なのだ。予測できる範囲には限界がある。
「ただ、思ったより立候補者は多いようですね」
「ああ。正直驚いた」
もちろん、多いといってもフォルノスと国枝を入れて五人である。
指揮能力やカリスマ性などがなければそもそも勝てない戦いなので、うまみが多いといえどこの程度の人数になるのだろうか。
「まだ主張を聞いているわけではないからな。どうなるのやら……」
「ただ、この学校は様々な勢力から狙われますからね。隙を出来る限りへらすとなると、国枝君レベルは必要でしょう。フォルノスさんに関しては、まだその手の交渉力すら見えていませんからね。この段階で分かるのは、何に気を配るべきなのかという程度のことでは?」
「まあそこが原因か……ん?」
「どうかしましたか?」
書類を確認していた宗一郎が何かに気が付いたようだ。
「これだ」
宗一郎はその紙を見せてくる。
「……椿ちゃん。『選挙管理委員会』の会長になりたいみたいですね」
「少なくとも、学生としてこの時間にいられるのは今年度だけらしいからな。さすがに生徒会長になるのはやめておいた方がいいと思ったんだろう。ただ、せっかくのイベントだから関わっておきたかった……といったところか」
「そう……遠くはないでしょうね」
何を考えているのかはわからない。
何も考えていないといわれても納得するだろうが。
「選挙管理委員会程度なら問題はないか」
「そうですね。正直お飾りでも業務上に問題がなければいいですし」
一応、『過去の沖野宮高校を見よう!』という意思はあるのか、かなり改装されて魔戦士学校となった沖野宮高校を見ているイメージはある。
ただし、運営側になったことは一度もないし、そのような視点を持っているとは思えない。
正直、『会長になってみたいですうううう!』とプンプン主張している姿が思い浮かぶので、おそらくその程度でいいだろう。
「ふう……とりあえず、今はマニュアルをさっさと仕上げるか。これに関しては絶対に終わらせるようにって言われてるからな」
ため息交じりにそういう宗一郎。
新しく魔戦士学校となった沖野宮高校だが、まだまだ探っている段階である。
そのため、『マニュアル第一版』が作成されればそれに加筆修正を加えられるので、とりあえず体裁を整えたマニュアルを作ってくれ。と注文を付けられているのだ。
一応、マニュアルの基本レイアウトやメモをアトムから受け取っているのだが、これがなかなか面倒なのである。
ただし、誰かに任せられるかどうかとなればそれもまた無理な話だ。
「そうですね……成文化するということは確かに重要ではありますし、大学でどういったものを任せられるかわかりませんからね。マニュアルを作ることで、自分たちが何をどういう基準で判断してきたかのまとめにもなりますし……」
英里が言う『大学』というのは、新しく開校する魔戦士専門の大学である。
二人は推薦を貰っていてこれに乗るつもりなのだが、大学に行った後でどのようなサークルに入れられるかわかったものではないし、また自分たちが作る可能性だってある。
そんな時、組織をまとめ上げるマニュアルを作ったことがある。というのはいい経験になるだろう。
ということを盾にしてアトムが交渉してきたのだ。
大学でも変なものを押し付けてきそうな予感がプンプンしてくる。
魔戦士学校は文部科学省を完全シャットアウトして魔法省が管轄になっているし、公式ホームページを見てみるとアトムが学校関係の責任者だったのだが、最初の犠牲が自分たちになろうとは。
「……はぁ。マニュアル、とりあえず仕上げるか。最悪何かあっても秀星が何とかするだろう」
「でしょうね。それに、アトムさんも無茶ぶりをしますが責任を手放す人ではありませんから」
社会で生き抜いていく秘訣は責任を負わないことだが、アトムも秀星もそういうタイプではない。
能力や才能に絶対の自信があるからだろう。正直次元が違う。
「選挙管理委員会の会長になりたいという椿の補助をするやつを選んでおくか……」
まだまだやることは多いようだ。
……そんな自分の後を継ぎたいか?と今すぐ立候補者に問いたい宗一郎ではあるが、こればかりは偶然この学校に魔戦士として入学して、そして生徒会長になってしまった宗一郎の先見の明がなかっただけである。
生徒会長なのだ。なったものはいずれ苦労する。
それが現実である。




