第八百六十六話
【ピーッ!ピーッ!バトルロイヤル終了時間になりました。神々の皆様。乱入参加した皆様。お疲れさまでした】
大罪神祖フォルノスの名前を出して数秒後。そんなアナウンスが流れてきた。
「……」
それを聞いたフォルノスは愕然としている。
「……ブフッ、アッハッハッハッハッハ!あんなに待ってから登場したのに、出オチかましてやがんの!あっはっはっはっは!」
「ブフフフッ!大罪神祖じゃなくて出落神祖じゃないんですか?ブフフフフッ!」
ラターグと椿はそれに対して爆笑。
……椿、結構辛辣である。
「ちょっと待て……」
フォルノスは参加者全員に配られるスマホを手に取る。
「おい、レルクス。いったいどういうことだ!……えっ?どのみち私の力はここでは見せない方がいいから都合が良いって?ふざけるな!じゃあなんのために私は出てきたんだ!……何?本当に出オチ程度にしか思わなかっただと!?」
どうやら電話の相手はレルクスのようだ。
文字通りすべてを知っているレルクスに対して直通の電話が通じる機会は少ない。
これを利用してどういうことなのかと苦情を入れているようだが、レルクスには通用しない。
「諦めなよフォルノス君。それに……君を相手にしたくなかったのは、僕も事実だからね」
ラターグの声色が真面目なものに変わる。
不機嫌な様子のフォルノスだったが、そのラターグの顔を見て、フンッと鼻で息を吐いて顔をそむける。
そのまま去っていった。
「ラターグさんが戦いたくなって……神祖ですけど、そんなにすごいんですか?」
「いや、神祖であるというだけなら別に問題はないよ。司る概念云々の話をのけると、普通の神よりも基本スペックが高いくらいだからね」
「ということは……司る概念的に相性が悪いということですか?」
「まあそんなところだよ。ただ……いや、彼の特殊性を考えれば、ここで詳しくは言わない方がいいかな」
フフッと笑ってごまかすラターグ。
「むう、ラターグさんが誤魔化すということは、本当に語る気はないということですね」
「そういうこと。よくわかってるね椿ちゃん」
「未来でも大体そんな感じですからね」
「おや、そうなのか。まあ、十年や二十年で変わるような奴ではない自覚はあるけどね」
「ただ一つ言えるのは、あの大罪神祖フォルノスという方と個人的な知り合いだということですね」
「ん?……まあそうだね。僕は大好きだよ」
そういってほほ笑むラターグ。
「……むう、よくわからないですね」
未来人である椿にもわからない関係性となれば、ラターグも相当心の奥にしまっている相手なのだろう。
そこは間違いない。
だからと言って、おとなしくしているかどうかとなればそういうものでもなさそうだが。
★
「椿。クリスマスは楽しかったか?」
「むう……なんだかよくわからないうちに終わりましたね!」
12月25日の夜。
何となくで聞いてみた秀星だが、そもそも椿は大体のことを楽しいと思う性格だ。
「未来でもいろんなイベントに参加しましたけど、そっちではこう……しっかりしていたんですよね。今日みたいな『手探り状態』っていうのはすごく新鮮でした」
「だろうな。魔法っていうものに対する反対意見そのものに意味はないが、だからと言って、それをイベントとしてどう落とし込んでいくのかっていうのはまだ経験不足だろ」
「性懲りもなくバトルロイヤルばかりやってますからね」
「……椿、ちょっと口が悪くなったか?」
「え、そうですかね?」
自覚がない。
何かに影響されているのか、それとも元から持っているものなのか……。
まあ、ストレスを感じにくく、流しやすい性格なので、その分もともと毒があるのかもしれないが……。
(……まあ、未来にいた人間が過去に来たことで、『過去に飛ぶまでの自分』に影響がないわけがないか。そう考えると、何かしらの影響が……いや、もとから他人の不幸で笑う子だったな……)
秀星は深く考えるのはやめにすることにした。
「ふう、二学期も終わってしまいましたし、あと残るのは三学期だけですね……」
ふと、椿がそんなことを言った。
椿がこの時間にいることができるのは、今年度のみである。
ただ、実際の入学準備を考慮すれば、ギリギリ三か月といったところだろう。
「……そういえば、椿って一応中学三年生だよな。受験ってどうなんだ?」
「すでに未来の方で実力を示していますからね。未来の沖野宮高校から推薦をすでにもらっていますよ」
「出席は?」
「沖野宮中学には留学期間を単位に考慮できる制度がありますからね。私は『過去留学』扱いなので問題ないです」
「……」
一応、留学というのは『留まり学ぶ』ということだ。
基本的に外国で学ぶことを指すものの、広義的に言えば遊学や研修を含めることもある。
ただ、『過去留学』という単語が通用してしまう未来ってどういうものなのだろう。
「もちろん、私はいろいろな試験をクリアして、魔法省から特例を貰ってきてますからね。さすがに一般的な概念ではないですよ」
「だよね」
そうじゃなかったらヤバいことになっていただろう。
「まっ、その間は好きにすればいいさ」
「そうするつもりですよ!未来は確かにとても楽しいですけど、こっちもとても楽しいですからね!」
笑顔の椿。
どこに行っても楽しいと椿は言うだろう。
だからこそ、どれほど楽しいと思えるものにするかは、今の秀星が努力することだ。
「そういえば、最後に出てきたフォルノス……いったい何を企んでいたんだろうな」
「むう、そこはよくわかりませんね。あ、そういえばラターグさんが『運命派』のリーダーだといっていましたよ!」
「運命派……師匠の派閥か」
「運命派っていったい何なんですかね?」
「そうだなぁ……」
どう説明したものか。と秀星は考えた後、まとまったようで話し出す。
「ちょっとした知識だが、俺たちが使ってる『魔力』っていうのは、基本的に神が世界を管理しやすくするために作った『神力』の『優先権的完全下位互換』だ」
「あ、確か、神力で作ったライターのような大きさの火でも、噴火のような火属性魔法に完全勝利できると聞いたことがありますね」
「ああ。この魔力を一般人の生体システムに無理なく搭載できるように加工して与えることで、多くの次元で魔力を得た存在が普遍化した。そしてその世界の人間が『魔力』に戦力を依存するように誘導することで、神々は数多くの世界に対して『優先権』を持っている」
「ふむふむ」
「だが、時折、神力や魔力と関係ない独自の力が誕生することがある。俺たちがいる地球ではそれが発見されていて、オリジナルエッセンススキル……略して『OES』って呼ばれてるな」
「そうですね」
そして、独自の力ゆえに、上下関係を無視して機能を行使できる。
秀星のアイテムマスターも同様だ。
「ちなみに、『魔力的なアイテムマスター』と『OES的なアイテムマスター』の二種類がこの世に存在するが、前者は神器を使えない。当然神器そのものには使用制限が存在し、魔力という概念ではこの神の力を突破できないからな。だが、神々だって指をくわえてみているわけじゃない。それらの『独自の力』を解析して、自分たちのルールに組み込めるように研究している」
「当然ですね」
「で、そうして解析をしているが、一部、『どうやっても解析することができず、所有者に不死性を与えるスキル』というものが誕生した」
「……神の力でも解析不可で、不死性?」
「それらのスキルを、天界では『運命スキル』と呼んでいる。師匠が言っていたが、運命派はその全員がこの『運命スキル』を持っているんだ」
「なるほど!運命派というのは『運命スキル』の持ち主なんですね!……む?ミーシェさんはどんなスキルを持っているんですか?」
秀星は一瞬、言うべきか迷ったようだが、椿ならいいか。と判断したようで説明し始める。
「……『剣の命題』というものらしい。詳しいことは俺も聞かされていないが、その効果の一つは、『剣を振るう限り、運命から旅人の称号を保証される』というものだそうだ」
「……よくわかりませんね」
「いまだに俺もよくわからん。ただ、師匠くらい強くなると、手刀も剣に分類されるらしい」
「それもまた謎ですね」
「ああ、謎だ。ま、暇つぶしに考える程度でちょうどいいだろ」
「わかりました」
「さて、とりあえず俺たちは退散するか。アトムにいろいろ押し付けられる前に」
「賛成です!」
アトムに何かを任されると大抵ひどい目にあう。
というわけで、遠慮なく退散することにした。
★
冬休みというものはクリスマスが終わっても、大晦日やお正月というイベントがある。
除夜の鐘をついたが、椿は『とりゃああああ!』と元気いっぱいに鐘を鳴らした。止めるのを忘れて二発目がなりそうだったのでセフィコットが止めていたが。
年越しそばは秀星が作って、朝森家と八代家と諸星家で集まって食べた。全員がおいしそうに食べていたが、胃袋というものには限界があるもので、大量に作った蕎麦の最終処分場は高志と来夏である。
椿は秀星と風香と高志からお年玉をもらったが、『むう……未来では福沢諭吉が一万円にのっているお札は絶滅危惧種ですからね。これは未来に持って帰ります!』とのことで保管することになった。
ほかにも神社に行ったり初日の出を見に行ったりしたが、静かにするべき場所以外ではほぼはしゃいでいた椿である。
「始業式だな」
「むっふーん!楽しみですね!」
「はいはい。準備できた?そろそろ行くよ」
秀星、風香、椿の三人で制服を着て沖野宮高校に向かう。
それぞれが鞄に冬休みの課題(クリスマスのイベント前には終わっていた)を詰め込んで、教室に向かうのだ。
秀星の家から沖野宮高校までそう遠くはないので、三人で歩いても問題はない。
元気いっぱいの椿の声は朝から通学路に響いて、そしてその声に振り向いたものは椿の笑顔を見て癒されて行く。
ここ最近では日常となったものだ。
学校につくと、まっすぐに秀星たちのクラスに向かう。
「あけましておめでとうございます!」
教室に入るや否や、そういいながら胸を張る椿。
教室の中からも『あけおめ~』『季節に変わらず元気だなぁ……』といった、あいさつや感想が返ってくる。
「ムフフ♪……む?あの席、二学期にありましたか?」
椿はそういって、教室の一番後ろの席に指差した。
真新しい机が置かれており、秀星の記憶でも確かに存在していなかった。
「……誰か転校生でも来るのか?そんな話は聞いてなかったが」
聞いていない話だが、沖野宮高校ではよくあることだ(迷惑)。
「まあ、全員が揃った後でリオ先生から何か言われるだろ」
秀星は大して気にしてはいなかった。
「さて、編入生を紹介しよう。クリスマスイベントで盛大に出オチをかました大罪神祖フォルノス君だ」
「かなり悪意があるな……まあいい。私はフォルノス。今日からこの二年一組に在籍することになった。よろしく」
……まあ、すぐに、大して気にしないとか言ってる暇はなくなったわけだが。




