第八百六十一話
全知神レルクス。
拠点として天界の一等地に周りと比べれば少々狭い程度の城を構えており、カテゴリ上は第一世代型の最高神の一人である。
司る力は、文字通りの『全知』
全知に対するアクセス権限を持っているわけではなく、その情報体に制限があるわけでもない。
文字通りの『全知そのもの』の存在であり、過去も現在も未来も、ありとあらゆる次元の全ての時間で発生することを知っている。
未来というのは砂粒のようなもので、様々な要因によって変動するといわれているが、その砂粒の全てを認識しており、過去にどんな分岐点があったのか、未来でどんな分岐点があるのか。
そして、その結果としてどのような未来が選択されるのかも知っている存在だ。
ありとあらゆる神や神祖、そして魔法概念の真理に近いところまで踏み込んでいる秀星にとって、必ず何か大きなことをする際に頭をよぎる存在であり、基本的に彼を無視できるものはいない。
一つだけ『明確な目的』があり、それに沿わないことはほぼ行わない『立ち位置』を取っている。
……黒髪碧眼で眼鏡をかけており、灰色のスーツを着ているが、天界ではそんじょそこらで購入可能なファッションである。地球基準なら質は高いが、天界だとごく一般的なものだ。
「レルクスさん。えーと……お久しぶりですね!」
「ああ。未来では確かに、君がこの時間に来る数週間前にあっている。久しぶりだね。椿君」
椿の『未来で一応あってるけどどう挨拶しようかな~~?』という疑問を一瞬で解決するその概念。
これだけで敵ならやっていられないが、問題はない。
「レルクス。一体何をしに来たんだ?」
「少し、伝えておく必要があると思ってきた」
「何を?」
「アトムがとあるサプライズを考えているんだ。それによっていろいろ起こりうるから、君が勝手に動くかもしれない。それを防ぐために話をしに来たんだ」
「サプライズねぇ」
「そのサプライズだが、昨日やったバトルロイヤルイベントの第二陣だ」
「ん?」
「そのバトルロイヤルには、多くの神々が出ることになっている」
「なんでそんな面倒なことになってるんだ……」
レルクスからもたらされた情報は圧倒的に秀星としては面倒だと思うものである。
そもそも安全管理委員会の会長に秀星はなったわけだが、これは最悪、出場者の何かしらの偶然によって結界や観客に何かが起こるのを防ぐためである。
だが、秀星であっても、神が相手なら別なのだ。
「……そもそも神々って、最高神の時点で、すでに俺よりも基本スペックが高いんだぞ。レルクスの雰囲気からするに、神祖も出てくるんじゃないか?」
「そのとおりだ」
「だよね」
「だから、安全管理委員会の役割を僕が引き継ぐことになっている」
「……」
全知の存在が安全管理委員会とは、反則というかなんというか……。
「むうう……なんで神様たちがバトルロイヤルをすることになったんですか?」
「それぞれの神々の部下が暴走した」
「……」
普通に言うレルクスだが、秀星はいろいろ思うところがあった。
レルクスはそもそも全知の存在であり、それらの暴走をすべて把握しているはずなのだ。
だが、それでもあえて放置したとなれば……。
「あえて無視したろ」
「その通り」
「……」
どうやらレルクスなりに、『このイベントをすることに意味がある』と考えているようで、それが原因で放置したのだろう。
神々が天界で何をするにしても別に地球には何も影響はないのだが、わざわざ地球でそういったイベントをする意味はないだろう。
ただ、神祖は天界で行動するにはいろいろ面倒な手続きや制約があるので、あえて神祖を巻き込むとなった場合、地球でやる意味もあるのだが……。
「……やっぱり、地球でそういったイベントをする意味が見えてこないんだが?」
「だからこそ僕が来ている……ああそれと、一応割り込みで参加することも可能だぞ」
「相手になるの神祖だろ。全力出さなかったら轢き殺されるわ」
「それを考慮したうえで、当然だが、僕は君が割込みで参加するか否かもわかっている」
「……」
言い方に問題がある。
「とりあえず伝えたぞ。僕はこれで失礼する」
そういって、レルクスはドアの前から去っていった。
「……お父さん。どうするんですか?」
「……状況によるな」
レルクスがバトルロイヤルイベントの報酬に何を設定しているのかはわからない。
ただ、参加人数によっては『報酬に興味がある』という判断をした神が多いという判断もできる。
「……私も神々の催し物っていうのは興味があるから、ちょっと準備しておこうかな」
風香はやる気のようだ。
神器を十個も持っている夫の戦いを理解するためには、そういった戦場に飛び込んでみるのが一番手っ取り早いと考えているのかもしれない。
(はぁ……マジでレルクスが何考えてるのかわからん)
秀星にだってわからないことはあるのである。




