第八百五十五話
秀星は基本的に自宅以外で寝ることはない。
転移魔法があるのでいつでも家に帰ることができるし、家の自室ではいつでもセフィアが最高な状態でベッドメイクを行っている。
もちろん、学校の修学旅行だとか、みんなで集まってどこかに泊まるとなればそこに泊まるが、どこまで遠出していたとしても、それが私的なものであれば、遠慮なく自宅で就寝する。
そういう感じなのだが、もちろん理由があれば他でもいい。
「む~~……どこかホテルに泊まりましょう!」
と椿が言えば、秀星と風香は断る理由はない。
ちなみに、普段から三人で同じベッドで寝ているので三人部屋を選ぶのに躊躇はない。
なお、普段からセフィアが家具の作成、そしてベッドメイクを行っているが、別にホテルそのものの質に対してこだわりはない。
これは三人とも同様である。
三人同時にベッドに入って寝られるかどうか。
この一点だけだ。シンプルイズベスト。
そして、それすらできないホテルってなかなかないので問題はない。
「お父さんとどこかに泊まるのはすごく久しぶりですね!」
「未来ではやらないの?」
「転移魔法で家で寝られますからね。中学二年のころに修学旅行に行きましたけど、当然クラスメイトだけですし」
「それもそうか」
未来でもかなり楽をしているようだ。
椿はとても笑顔で部屋に入っている。
三人部屋ということで広めであり、かなりウキウキしているようだ。
ただ、ホテルというのは基本的に静かにしなければならないことになっているので、椿もそこは守っている。
そういうしつけはされているので、とてもうきうきしているが、声の大きさはそうでもない。
「えへへ。おかあさーん♪」
現在、夜の七時。
普段の椿からするとまだまだ動き回るような時間だが、どうやらそういう気分ではないらしい。
三人ともお風呂に入って(三人全員で入っている。お父さんと一緒に入ることに対してごちゃごちゃ考えるようなことはない)、寝間着に着替えてホカホカしているが、椿は風香に抱き着いていた。
「むにゅう~……」
抱きしめている椿だが、風香の抱擁でかなり眠くなっているようだ。
……どうやらそういう空気の変化を使っているようで、椿が好きな雰囲気を作っている。
かなり眠くなってくるのだ。
「……ん~……」
寝ぼけ眼で秀星の方を見てくる。
「……さすがにイベントで椿もつかれたのかね?」
「多分そんな感じじゃないかな。飲んで食べて騒いで戦って手りゅう弾を撃ちまくってたもんね」
「確かにな」
乾いたような笑みを浮かべる秀星。
手榴弾云々は秀星がやったことだ。
ベッドに三人で上がって、椿をはさむように布団をかぶる。
「むにゅう……♪」
とてもうれしそうな様子で眠り始める椿。
なんというか……誰かが傍にいないと寝られない体質のようで、そしてその筆頭が秀星と風香である。
ちなみに、中学二年生でごく一般的な感性を持っている星乃はそのようなことはなく、この状態で椿が星乃を誘うと逃げるらしい。当然だ。何も知らない人から見れば思春期の少年で遊んでいる姉である。
とまぁ、そんな感じで、この状態なら椿は寝られるのだ。
「zzz……」
可愛いですね。




