第八百五十四話
とりあえず居酒屋にセフィコットを預けた秀星は風香と椿と一緒に街の中を歩いていく。
……その歩いているとき、椿から『セフィコットさんを預けたら逆に遠慮しなくなるだけだと思うんですけど、それって大丈夫なんですか?』と言われて、取り合えず秀星はセフィコットの対応力を引き上げておくことにした。
秀星がここまでする理由だが、こと高志と来夏に関して言えば、現代の日本にいながら二人が起こすトラブルを未然に防ぐ手段というものが存在しないからである。
どれほど高志と来夏があばれようとも、それが関わった店に対するクレームにつながってしまうのは『筋違い』だと考えているのだ。
だからこそここまで援助しているだけである。他意はない。
「で、椿、どこか行きたいところはあるか?」
椿に聞く秀星。
風香にきいても『私はどこでもいいよ』というだろうし、秀星も特に行きたい場所があるわけではない。
そのため、椿に聞くしかないのだ。
……せっかく家族で行動しているのに、あまり進展がないのはそういう理由もあるだろう。
「むう……私もどこでもいいですよ!」
もちろん、だからと言って椿が意見を持っているというわけではない。
もともと椿は多くのことに興味を持つタイプの人間だが、それと同時に、それらに対して優先順位があるわけではない。
椿は周りに誰もいなくても勝手に元気になれるほど自分で自分の意思を捻出する力が強い。
この場はお父さんとお母さんに任せようとなんとなく考えて話を振られたが、優先順位を持っていない椿としては『なんでもいいですよ!』というしかない。
……いまいち歯車が噛み合わない家族である。
というか、私もと言っているあたり、椿も両親のことをわかっているようだ。
「……どうするかな」
「そうだね……」
そして椿の返答に困る秀星と風香。
「とりあえず、いろんな土産がおいてあるだろうし、いろいろ見ていくか?俺は持ち運べる量に制限はないからな」
『オールハンターの保存箱』を持っている秀星の『収納ストレージ』にほぼ制約はない。
まあ、別に保存箱に頼らざるとも、普通に使える収納魔法の方で全然問題はないのだが。
というわけで、ショッピングモールの土産コーナーに行く三人。
「む!とても美味しそうなものがたくさんありますよ!」
試食コーナーを発見するたびにひょこひょこ近づく椿。
試食コーナーにそこまで購入意欲を刺激する要素があるのかどうかいまいちわからないが、椿に対しては効果が抜群のようだ。
まあ、ありとあらゆる作戦が椿に通用しそうな気がものすごくするのだが、気にしても仕方がない。
それが朝森椿という人間だ。
「チョコレートもゼリーもラーメンもアボカドもショートケーキもとても美味しいですね!」
「試食コーナーってこのあたりってそんなにおいてたっけ?ていうか食べ合わせとんでもないな。口の中がカオスになるんじゃないか?」
「というかそのラインナップに並ぶアボカドの癖がすごいと思うのは私の気のせいなのかな」
試食コーナーをぐるりと回って、カートに積み上げられていく土産をとりあえずセフィアに会計に持って行かせて処理して新しいカートを持ってきてもらって……を繰り返して、試食コーナーの時点でかなり椿は満足しているようだ。
正直、そこまで食べてたっけ?と思わなくもないが、それ以前に食べ合わせがすごい。
「むふふ♪お父さん。お母さん。別腹という言葉がありますよね」
「ああ」
「そうだね」
「別腹があるのなら別舌だってありますよ!」
「「……」」
別舌。という言葉が既存の単語であるかどうか、そしてその単語の意味が椿が言った通りの使い方になるのかどうかはともかくとして、秀星と風香は言葉を失った。
別に椿のそれが悪いと言いたいわけではないのだが、椿の言い分が通ってしまうと、『食べ合わせ』という概念が吹き飛ぶのでどうなのかと思う。
「なので、私はなんだって食べられるんですよ!」
「流石に量に制限はあるんじゃないのか?」
「体重は気にならないの?」
「栄養は全部胸に行きますからね!いだだだだだだっ!」
風香のアイアンクローを受けて悶絶する椿。
風香はギャグ補正持ちではないので、そういった都合のいい体質はしていないのだ。食べれば太る。
「お、おおおお……」
開放されたが唸り声のようなものを出して撃沈する椿、
「むうう!いきなりひどいですよ!」
ただし復活は早い。
「ひどくはない。今のは椿ちゃんが悪い」
「えー……」
「ワカッタ?」
「は、はい!わかりました!」
コクコクとうなずく椿。
秀星相手ならルールの押しつけだろうが何だろうが好き放題やるが、それでも風香は怖いらしい、
……嫁と姑が手を組んでいる現状、秀星も風香には勝てない。
おそらく星乃も風香には勝てないだろう。
よって風香は朝森家で実権を握っているのだ。まあ、しっかりした女性が実権を握ったほうが平和なのは家庭も職場も変わらないのだが。
「じゃあ、次行こっか」
「はい!」
「……」
言わんとすること、主張していることはわかる、
ただ、このどうしようもないもやもやは一体何なんだろうなぁ。と秀星は思うのだった。




