第八百五十話
「なんていうか、戦車に乗ってきても秀星は余裕そうだな」
戦車の上から娘がグレネードランチャーをブッパしており、それから逃げるというなかなか経験できないことをやっていると、復活ポイントから帰ってきた基樹がそんなことを言った。
「……お前も余裕そうだな」
「当たり前だろ。俺はこの手榴弾を魔法で防御していいからな」
「それもそうか」
今は一応移動している。
今も椿は手榴弾をグレネードランチャーで連射し続けているので、足を止めると爆発に巻き込まれてジエンドなのだ。最終的に誰に倒されるのかはともかく、あっけない最後はゴメンなので逃げ回っている。
「しかし、秀星も大変だよなぁ。こんな爆発から逃げ回るために足を動かし続ける必要があるなんて」
「まあ正直、別に足を動かし続ける必要はないんだがな」
「そうなのか?」
「ああ。手榴弾のテキストは基樹のスマホでも確認できるはずだが、そこには『魔力を使って防ぐことはできない』って書かれてるだろ?」
「確かに」
「言い換えれば、魔力を使わなければいいというだけの話だ。建物の中に逃げ込んだり、純粋に剣風で手榴弾そのものをふっとばしてもいい」
「ガバガバじゃねえか」
「ちょっとくらい俺に融通がきいてもいいだろ。と言いたいところだが、単純にこのアイテムを作るときにセフィア抜きで俺一人で考えたから結構ガバなんだよ……」
秀星はゲームを作る側の経験はほとんどない。
沖野宮高校を実質的に支配している『ポイントチケットシステム』だって、そもそもセフィアたちに調節してもらっているからこそなんとか運営しているのだ。
まあ、チケットそのものはコピーも破壊もできないし、そもそもセフィコットに支払われるときのみ効果を発揮する通貨なので、贋作などを作っても大した意味を持つことはない。
圧倒的な価値があるので本位性に使える程度だろう。
それらのシステムをまとめたのはセフィアたちであり、秀星はシステムの大まかな提案をしただけで、特に何もやっていないのである、
なれていない人間というものは、自分の価値観で『こういうものだろう』と勝手に判断するもの。
秀星も同様だ。自分のミスをすべて自分で尻拭いできるから問題になっていないだけである、
ちなみに、『ユグドラシル・ストア』でさんざん稼いでいるので、金で解決できる問題に関しては無敵である。
「まあでも、そんなもんだよなぁ。ただ、あえてそれをしないってことは、結構まだ余裕があるからなんだろ?こうして俺と戦いながら爆発から逃げてるし」
なお、爆発から逃げているが、基樹とも戦闘中である。
爆発と基樹を同時に相手しているが、秀星視点だと、魔王化すらしていない基樹は大して強くない。
流石に公衆の面前で魔王化する気は基樹にもないのだろう、
あるいは誰かに鑑定されて『再臨王者モトキング』という名を晒すことをいやがったのか。そんなところのはずだ。
「だな。基樹もあんまり爆発を利用した戦術を取らないし、いうほど真面目に戦う気はそんなにないだろ」
「ぶっちゃけそうだな。報酬がしょぼいし」
あれから椿の爆撃に耐えながら報酬を確認していたが、多くが『これって魔法省の利権に絡んでこないか?』と思うものばかりだった。
要するに、多くのものがこのイベントを政治に使う気まんまんなのである。
その利権がほしい企業と絡んでいる魔戦士は企業からいろいろ言われているはずだが、そのような利権などどうでもいいトップクラスの者たちは言われてもなえるだけだ。
別に権力や金に興味がないわけではないのだが、前提として、『上位陣にとって、力の差があまりにもはっきりしている』のである。
秀星特効アイテムも出てきたが、本当に頑張って当てる必要があるので実用的とは言えない。
他の参加者に対していっても、もとの力の差がありすぎてなえる。
椿が連射している爆発はたしかに効果が大きいだろう。
秀星自身。ルールにがんじがらめにされていて、普段通りの力などほぼ出せない。
しかし、全く互角にはならないのだ。
これでどうやって『本気になる意義』をみつけろというのだろう。
まあ、椿が本気で頑張っているので、秀星もそこに乗る気ではある。
「とりあえず……派手に動いておくか」
「そうだな。特効アイテムがあっても倒せないんだ。カメラ写りがいいように最後に動いて終わろう」
現在。多くの参加者が戦いそっちのけで酒盛りを開始している。
もちろん、彼らに食レポの経験はないので、素直に美味しそうに食べているところを写すだけだ。
せめて、派手に戦っておこう。
(まあ……最初からこうなる気はなんとなくしてたんだけどなぁ)
つまらないと言うつもりはない。
参加者である以上、面白くするのは秀星たちの役目でもある、
ただ結論を一つ言えば、『参加者のモチベーション』は一番重要だ、
それがないと盛り上がりませんね。
というわけで、秀星と基樹が演舞のようなものをやって、バトルロイヤルイベントは終了。
カメラが最後に写したのは、『結局倒せなかったですううううう!』と風香に泣きつく椿の姿だった。
第一回目だというのに、ここまでどうにもならない締めになったイベントは珍しい。
アトムには次に期待する。
というわけで、現在はクリスマスイブ。
クリスマスに向けていろいろあるのだ。
結局何がしたいのかよくわからない迷走聖夜は続いていく。




