第八百四十九話
全員が秀星を倒すことに対してほぼ興味がないといったが、そこに事実に反する部分はない。
だって魔法省が提示したメリットがしょぼいのだ。それ以外に特に気にすることなどありはしない。
だが、椿は乗り気なのだ。
現代よりもバトルロイヤルが一般化している未来では、より大衆的な意味が強くなる。
それは要するに、『バトルロイヤルを特別なイベントとはしない』ということだ。
さらに言い換えれば、『椿にとって、バトルロイヤルはゲーム』なのである。
秀星に挑むことはゼロではないだろうし、そこでセフィアが秀星に味方しない場合も数多く存在するはずである。
だが、秀星に勝ったことはほぼないはずだ。
そもそもプライベートでやる場合、今回のような『秀星特効アイテム』を設定する意味がない。
この時代の多くの人間にとって、安全面がかなり解決されたバトルロイヤルは特別なものなので、その分、『新しい技術という見方』が強く、催し物ではあるが、『特効アイテムなど使わずに正面から倒すことに意味がある』ということに視点が向きやすい。
そのため、『ルール上秀星に勝てる』ということに重要性を見出す人間は少ないのだが、バトルロイヤルというコンテンツをゲームとしてとらえている椿にとって、『ルール上、秀星に勝てる』ということは、『ゲームで秀星に勝てる!』ということだ。
世界一位とかそういう意味ではなく、純粋な意味で『父親にゲームで勝つ』という快感は、十五歳だが純粋な椿にとって大きな快感が発生する。
だからこそ全力なのだ。
「お母さん!戦車の運転は任せますよ!私は砲台役として撃ちまくります!」
……で、ゲームとして秀星をぶっ倒す気満々なので、全力になったからと言って真面目に見えるかどうかは別である。
「……なんだろう。何かを間違えている気がするんだけど、どういうことなのかな」
つぶやく風香だが、まあこれに関しては純粋に、今やっているのはゲームなのだという自覚があれば十分である。
椿の隣にいるのならなおさらだ。
第一、ゲームじゃなかったら、秀星がここまでガチガチに制限を掛けたうえで自分専用の特効アイテムなど用意しないだろう。
……まあ、仮にだ。
ゲームじゃなかったら、そもそも秀星が自分の特効アイテムなど作れるのか。という問題もまた発生するだろう。
そもそも秀星が本気になった時、自分の弱点などわかるのかという話だ。
あっても即座に自分の体を弄って直接その弱点を克服するだろうし。
というわけで、今回はゲームということで精いっぱい遊ぶべきなのだ。
戦車に乗ってハンドルを握って、イケイケどんどんで戦車を走らせるのが正解である。
というわけで、アクセル全開!
すごい勢いで戦車が走り始めた。
「おおっ!すごいです!これならスナイパーの『時々場所を変更するべき』ということを守れそうですね!」
一発撃ったら弾道で分かるのがスナイパーだ。
……まあ今の椿をスナイパーとするかどうかは議論しないとして、確かにそれでは『警戒すべき方向がわかる』ので薄くなる。
「お父さんをぶっ倒してやります!このゲームは私の勝ちですよ!」
圧倒的な速度と耐久力がある戦車。
そして無限に連発できるグレネードランチャーと、秀星特効手榴弾。
椿にとっては最強装備なのだろう。
「むふふ♪お父さん。覚悟です!」
そして再び、手榴弾を連発しまくる椿。
移動することで警戒すべき方向を悟られないようにしたうえで発射される手榴弾。
椿はまさしく、『無敵』だと考えているだろう。
……まあ一つ残念なことがあるとすれば、その程度で秀星の演算を超えられないということだろうか。
弾道のずれから移動速度を割り出して、そして何に乗っているのかを頭の中で計算して的中させて、その運転の質からだれが運転しているのかを予測し、そしてその運転手ならばどのルートを通るのかすら頭の中のマップと合わせて推測できる。
秀星はチートである。




