第八百四十七話
「おー、秀星。めちゃくちゃ逃げてんな」
「ああ、まあそうなってる理由はわかるけど、秀星が逃げの一択っていうのは本当に初めて見るぜ」
遠くから高志と来夏が秀星を観察していた。
遠くにあるビルの屋上からビールが入ったクーラーボックスをそばにおいて観戦している。
なお、つまみ等も万全だ。
「うー!」
ずぞぞぞぞぞぞっ!という音が聞こえそうな勢いでヨーグルトを腹に収めていく沙耶。
あまり秀星に興味はないようだ。
目の前にある食べ物はすべて、イベントが終了したらもう使えないからとスコアを払いまくった豪遊アイテムがズラリと並んでいる。
正直、遠くで派手なことをやっているのを肴にして食べて飲んでを繰り返すのが一番楽しい。
まだ二歳だしね。
「沙耶もすっかり豪遊になれてんな」
「これだけ揃ってたらそりゃそっちに食いつくだろうぜ」
加えて、沙耶は個人で倒せてスコアの効率がいいモンスターを自分で討伐している。
……まあ、二歳児である沙耶が倒せるようなモンスターとなると、このイベントに呼ばれるような参加者なら呼吸するように倒せるモンスターだが、もちろん、『酸素くん』のようなわざと用意されたモンスターたちだ。
企業が魔法省から買った『モンスターデザイン権』を行使してつくった『楽に倒せる高スコアモンスター』や、『基本的のものすごく頑丈だがピンポイントの弱点がある』とか、そんな感じのモンスターが多い。
沙耶はそれらのモンスターのサーチアンドデストロイを実行し、スコアを荒稼ぎして店で使っている。
……世の中の二歳児に対して大きな影響を及ぼしそうな気がするが、イベントのホームページで注意書きをいくつもしているので、問題になることはあっても致命的にはならない。
「秀星も大変だよなぁ。ガチガチの制限があるってのに、自分を一撃で倒せるアイテムを設定しなくちゃならないなんて」
「強すぎるからな。しかも国語辞典レベルのルールをすべて考慮して動けるんだろ?」
「だな。逃げ回ってる秀星なんてそうそう見られないだろうし、アトムは喜んでるだろうぜ」
散々秀星に好き勝手されている。
まあ、今回好き勝手にしているのは椿なのでまだ『呪い』は残っているし、秀星が苦労している根っこにはセフィアがいるので、セフィアの匙加減と言えなくもないが、とりあえず、と言える溜飲は下がっただろう。
「ただまぁ……まだ余裕があるよな」
「だな。一応オレたちの存在には気がついてて、警戒してるみたいだし」
余裕がないというわけではないようだ。
「そういやあの手榴弾。俺たちに対してはどうなんだ?」
秀星に対して特効というのはルール上である。
一般の参加者はどうなのだろう。
「うーん……爆発のエフェクトは大きいけど、地面への影響は少ねえし、そんなに強くはなさそうだな」
「だな。致命傷の判定は出にくそうだ」
ということらしい。
特効と言っている以上、専門的な性能なのだろう。
「まあ、その割に人が来ないな」
「爆撃されてんだから来ねえだろうな……」
流石に爆撃されているときに攻め込んだりしないだろう。
「さて、どうなるかね……」
現在、秀星を倒せる筆頭は椿だ。
しかし、結果はまだわからない。というのが高志の演算である。




