第八百四十六話
「いやいやいやいやどうなってんのこれ!?」
空から降り注ぐ手榴弾を避けながら、秀星は悲鳴を上げていた。
爆発に巻き込まれるとその瞬間に秀星はゲームオーバーである。
(本当にどうなってんだ。確かに破壊不可能は設定したが、複製不可ではない。だが……このイベントの複製アイテムはかなり制限があるはず。かなり裏の店を見つけて潜らないと商品を見つけることすらできないはずなんだが……)
手に入れたのが椿であることは確定している。
そして、椿はこの手のアイテムをむやみに手放すことはないだろう。
要するに、椿以外の人間が複製アイテムを持っていたとしても、手榴弾を使うことはできない。
(椿がタイミングよく、手榴弾型のアイテムを無制限に連発できるランチャーを持っていたってことか……しかし、この連射性能は圧倒的に高いな……そんじょそこらの懸賞スコアを払うだけだと手に入らないぞこれ……)
当然のことだが、商売において『商品の価値』と『商品の質』は比例する。
今回、イベント中に購入できるアイテムには『他のアイテムを複製できるアイテム』も存在するが、かなり制限が設けられている。
理由は簡単で、今回、イベント中に手に入れたアイテムはイベント終了後に参加賞として持ち帰ることができる。
そんな中で、『ほぼノーコスト・無制限で他のアイテムを複製できる』となれば、あっという間にそのアイテムの市場価値が崩壊するからだ。
それを販売することを生業とする者からすれば疫病神以外の何物でもない。
だからこそ、『そんじょそこらのスコアでは買えない』といったのだ。
(いったいどうなってんだ?椿はそこまで稼ぐネタを持ってたってことになるのかね……)
手榴弾の爆発を避けながら考える秀星。
手に入るアイテムの中で『自動追尾』のアイテムは出てこないように設定されているはず。
加えて、椿から秀星が見えているわけではないので、おそらくマップ上に表示されている秀星を狙っていると思われるが、意外と執拗に狙ってくる。
未来の秀星は何か悪いことをしたのだろうか。
……未来の自分の話なのにどこか心当たりがあるのは秀星の気のせいだろうか。
(あー。くそっ。マジで意味が分からん。今回俺に許されている戦闘力だと、今のところは逃げるのが精一杯か……)
あまりやりすぎると『魔法という概念の販促』として行われている今回のイベントに支障が出ると判断したアトムから制限を設けられている。
……まあ、それならそれで『基礎的な動きの質』を上げるだけなので基本的に問題はないのだが、『秀星が防御不可能な攻撃』がルール上存在し、そしてその攻撃が今回の爆撃なので避けるしかないのだ。
瞬間移動も転移も今回はルール上使えない。
「……大体一秒で六発くらいか?ちょっと効果が派手すぎるなぁ。いったいどういう値段で買ったんだろ」
秀星は一つ。勘違いをしている。
そして、その勘違いに気づくヒントはいくつかあるが、まあこればかりは秀星の視野が狭いというより、純粋に『ピンポイントな視野』が求められるので気が付かないのも無理はないだろう。
今回のイベントは『バトルフィールドの運営はセフィコットによって行われている』というルールだ。
人間が用意できるサービスよりもセフィコットの方が質が高いということ。そして圧倒的に派手な攻撃が飛び交う今回のバトルフィールドだと、魔法関係にかかわってこなかった人間であればあるほど精神的に参ってしまう。
安全管理委員会の本部長が秀星なので素人が紛れ込んだとしても安全管理上は問題ない。
だが、いくら秀星でも、精神的な部分のケアは一々やるほど暇……ではあるが、少なくとも専門家ではない。
そのため、全てのサービスにおいて、そのサービスの円滑な運営のために人間ではなくセフィコットが行っている。
そして……『つい先ほど、そんなセフィコットたちよりも上の階級となるセフィアの端末の中で最高レベルの権限を持っている存在』がやらかしたことを考えれば、自ずと見えてくる。
ここで結論を出すが、『店番をしていたセフィコットが椿に格安で販売した』のだ。
椿が『高いですぅ……』といったので、セフィコット側から値段の交渉をしてきて、椿は格安で購入できたのである。
だからって十五歳の娘にグレネードランチャーを販売するかどうかとなれば疑問が浮上するが、突っ込んでも話が見えないので放置しよう。
まあ……『カメラが入っていけない更衣室』に連れ込まれたりしているが、それはそれとしよう。あとでセフィアが風香にボコボコにされるだけである。
椿ルールが適用されたのは、秀星特効手榴弾が初めてではない。
そして、『椿ルール』を作ったのは『椿』ではなく『セフィア』なのだ。
セフィアは『椿が提案してきたからそのルールが誕生した』といったが、椿は単なる主張をしただけで『ルール』という言葉を使っていない。
セフィアは確かに椿のいうことをほぼ許容するが、それでも椿を必要以上に自由に聞くことはない。あくまでも主人は秀星である。
それともう一つ。
セフィアは『秀星様が、椿ルールを受け入れないことをあらかじめ言わなかったからです』と秀星に説明したが、だからといって秀星が『椿ルールを受け入れないように』といったとしても無駄である。
『受け入れる』ということをセフィアが『椿が提案したルールを聞いてそれを反映する』という意味だとわざと解釈し、『椿様が作ったルールではなく、セフィアという端末がそのルールを作った』ということにして、受け入れないというルールを守りつつも椿に格安でサービスを提供する。
そして秀星の言語システムがセフィアに対して『椿を優遇するな!』とはいわないことをセフィアは理解している。
秀星は一つ抜けている。
必要な論点は『受動的』ではなく『自主的』という部分。
セフィアは秀星と椿の言い分を聞く聞かない以前に、『最初から椿を優遇する気満々』だ。
主人より可愛いから当然である(セフィアの本音)。




