第八百四十五話
「凄いアイテムです!」
椿が手榴弾のようなものを手に掲げてそういった。
「……」
手榴弾を掲げて喜ぶ娘をみてどんな感想を抱けばいいのかわからない風香。
「いろいろとテキスト欄が多いですね。これ」
アイテムの説明をホログラムウィンドウで確認できるのだ。
★
秀星特効手榴弾
①:このアイテムは破壊不可能。ルール上、秀星でも破壊できない。
②:このアイテムの爆発に秀星が巻き込まれた場合、秀星はフィールドの外に転送され、「秀星がフィールドにいることによって適用されているルール」を無効化する。
③:秀星は魔力を使った要素でこのアイテムの爆発を無効化できない。
★
「流石に倒すのは無理だから追い出すってイメージかな」
「そうですね。こういったイベントでボスとして出てくるときは大体報酬無制限ですけど、勝てないので追い出すアイテムが作られるというパターンはよくありますよ」
「ちなみに、その追い出すのが成功した例って未来ではあるの?」
「魔王状態の基樹さんと、本気になったアトムさんと、買っておいたプリンを食べられてブチ切れたお母さんが手を組んだことで一回成功したくらいだと記憶しています」
なんだか悪意というか無駄なネタが混じっているかのような椿の言い分だが、悪意はない。というか椿に悪意というものは基本的には存在しない。
「なるほど……」
『私って買っておいたプリンを食べられたくらいでそこまで怒るかな』というのが風香の感想だ。
そもそも風香はデザート類にそこまで執着があるわけではない。
なお、風香の大好物はキュウリとハムを細切りにしたものに卵黄醤油を混ぜたものである。
「私ってプリンに執着があったのかな?」
「まだ私が三歳の頃、お母さんが星乃のために買っておいた特注プリンをお父さんが勝手に食べて、お母さんが星乃にサプライズで出そうとしたけど冷蔵庫になくて、ものすごく期待した当時二歳の星乃が号泣したみたいですね」
なるほど。
「その次の日に行われたイベントで、お母さんが基樹さんとアトムさんを早々にボコボコにして主導権を握って、お父さん特攻作戦がおこなわれたそうです」
「どんだけキレてるの私」
秀星を除けば世界最強候補になるであろう基樹とアトムをボコボコとは……。
「というか、私って秀星君にゲームのルール上だけど勝てたんだね」
「しっかり謝って星乃にすごいプリンを自作したお父さんは後に、『嫁と姑が手を組んでるのはズルい』と言っていました」
「なるほど」
要するに……未来の朝森家で一番強いのは風香だということになる。
家庭だろうが職場だろうが、しっかりした女性が主導権を握っているのが一番いいと秀星の母親である沙羅が口にすることがあるのでそういうものなのだろう。
高志を見ていると、主導権を握っていても手綱を握れている気があまりしないのだが……そこを突っ込むのは野暮というものか。
「まあとりあえず、私はグレネードランチャーを持っているので、これに装填してお父さんをぶっ飛ばしてやります!」
(物騒)
グレネードランチャーをもってここまで移動していた椿には脱帽である。
「でも、一発だよね。大丈夫なの?」
「手榴弾を全弾ブッパした後で気が付いたんですけど、装填場所に入れてここのスイッチを押すと、同じ球が無限に打てるんですよ!」
「……」
しゃべることのいたるところにアホなところが混じる娘である。
「あの、宝箱には一発しか入ってなかったよね」
「破壊不可能とは書かれていますがコピー不可能とは書かれてないのでなにも問題はありません!大丈夫ですよ!」
「なるほど」
そういうルールの穴をついたようだ。
確かにゲーム中に一度しか手に入らないユニークアイテムのような扱いではない。
そもそも、そこまで希少価値を上げてしまったら、使わずにとっておいて倒されて、そのまま秀星が回収してジエンドまである。
「ええと……」
スマホでマップを確認する椿。
「よし、お父さんはあっちですね」
そういうと、工事現場で使うような黄色いヘルメットをかぶって、グレネードランチャーのトリガーを弾きまくる椿。
いくつものグレネードが何十発と飛んでいく。
その先は建物が多くて見えないが、爆発音が多数聞こえてくる。
「むうう、お父さんが退場した様子はないですね」
時々スマホの画面をみて確認する椿。
「……」
育て方を間違えたかな。と思う風香であった。




