第八百四十四話
「うーん……ちょっと、ヤバいことになってきたな。地面が」
秀星は自分が立つ空中から見下ろした地面を見てそうつぶやいた。
基樹と暴れすぎた結果そうなってしまったわけだが、もちろん反省も後悔もない。
「基樹も三回くらい倒したし、父さんと来夏が来る様子はないからなぁ……」
あれから何度も挑んできた基樹。
今回は倒されると相手に懸賞スコアが加算されるのだが、本人にデスペナルティは存在しない。
あえて言えば、懸賞スコアが減ってしまって狙われにくくなる程度だ。
ちなみに、これは一度死亡判定が発生すると強制的に適用されるので、秀星を攻略後に基樹を狙っていた人たちから狙われることもなくなるということだ。
「多分まだ俺の特効アイテムは手に入っていないだろうし……」
そうつぶやいた時だった。
秀星のスマホに着信が入る。
「セフィアからか……はいもしもし」
「秀星様。特効アイテムが回収されました」
「……」
秀星は珍しく黙った。
高志や来夏に関係のない要素を前にして、珍しく黙った。
「……ちょっと待って、『回収』ってどういうことなんだ?」
『回収』ということは、『もともと本人のものだったから取りに来た』という雰囲気だ。
だが、それはおかしいだろう。
今回のイベントのルール上、秀星の味方は運営側が用意した誰か。くらいである。
(特効アイテムに何らかの問題があると判断したアトムたちの誰かが屋敷にやってきて、特効アイテムを回収したのか?ただ、アトムが用意したルール通りに作ったはずなんだけどなぁ……第一、スペアみたいなものは用意してないし……)
うーんうーんと唸る秀星。
「その回収って誰が来たんだ?」
「椿様と風香様です」
「……」
秀星は再び黙った。
「……なんで入れたの?」
「椿様は秀星様の娘だからです」
「ふんふん」
「そして未来の人間である椿様に『椿ルール』が適用されるのであれば、未来では秀星様の妻である風香様にも『妻ルール』は適用されます」
「そんなルール一体いつできたんだ?」
「椿様がそのルールを提案したからです」
どうやらセフィアの中の『イベント中の優先順位』は『秀星』<『椿』らしい。
別にいいけど……別にいいけど……!
「秀星様」
「ん?」
「ドンマイです」
「お前が言うなや……」
回収されちゃったのはセフィアがルールを受け入れたからでしょ。
「違いますよ」
地の文に割り込むんじゃない。
「秀星様が、椿ルールを受け入れないことをあらかじめ言わなかったからです」
「……」
「神々すら相手にする秀星様にしては大きな隙ですね。これからは気を付けるべきですよ」
「優先順位というものをしっかり確定しておくべきだったか……」
「まあ、椿様から提案があって、その場にいない秀星様の意見を考慮するつもりはさらさらありませんがね」
「ひどくない!?」
もちろん、本当に真剣な場でそんな主張をすることはない。
のだが、このようなイベントの時は全然味方をしてくれないのだ。
「あの特効アイテム。今回俺が許されてる戦闘力を行使する範囲で破壊不可能なんだよなぁ……」
自分に対する特効アイテムであっても、秀星はやろうと思えば問答無用で破壊可能だ。
しかし、それができないようなルールになっている。
簡単に言えば、『Aの要素を混ぜて攻撃すれば破壊できる』というアイテムだが、今の秀星には『Aの要素を混ぜた攻撃をすることができない』というルールがあるのだ。
アトムは秀星の扱いを学習しているようで、かなりたくさんのルールを押し付けてきた。
そのほとんどが制限である。
国語辞典レベルの量の制限がかけられたとしても、秀星がそのルール通りに動けるということがばれてしまったのが痛い。
「そのように作らないとゲームになりませんからね」
「ただ、楽に負けるつもりはないし、頑張りますか……次から気を付けよう」
セフィアはこういう時は味方になってくれないのだ。それが分かっただけ、このイベントに参加する意義はあったといえる。
……今までにもそんなフラグが若干あったような気がするけどね。




